インポスター症候群とはどんなもの?原因から改善方法まで解説します

インポスター症候群とは自分を過小評価し否定的に捉える人のこと。この記事ではインポスター症候群の概要・原因・特徴をはじめ、改善方法や本人への接し方まで解説します。インポスター症候群について不安や疑問を感じている方は、ぜひ参考にしてください。

インポスター症候群とは

インポスター症候群とは、仕事やプライベートが順風満帆であるにもかかわらず「自分を過小評価してしまう」ため、常に自己不信感を抱える人のことです。

インポスター症候群のインポスター(impostor)は、日本語で「詐欺師」を意味します。自分の成功は自らの実力で獲得したものではなく、運や周りの人たちの成功によるものだと考える傾向にあります。周囲に「自分が成功しているように見せかけて騙している」といった心理状態になる人も多いでしょう。

そのため、周囲からの称賛を重荷に感じる場合があります。

インポスター症候群は女性に多い?

インポスター症候群は、特に女性に多いと言われています。

社会では依然として「男性が主導権を握る」ケースが多いことが理由として挙げられます。

多様化を推進する流れも相まり「男女平等が当然」とされる世の中であるものの、日本は諸外国と比較すると、ジェンダー平等に対する取り組みが遅れていると言われることが多いです。

ひと昔前と比べれば、女性の社会進出は進んでいるものの、女性の管理職の割合が、半数にも及ばないケースが現状です。内閣府の階級別役職者に占める女性の割合の推移によると、2018年時点で「民間企業の係長クラス」の女性が占める割合は18.3%、「部長クラス」であれば6.6%という結果になっています。(※2018年のデータ)

引用元:男女共同参画局サイト「階級別役職者に占める女性の割合の推移

社会的な状況に鑑み、「実力がなににもかかわらず、女性だから優遇されている」と考え、自分が悪いことをしている感覚になる女性もいるでしょう。

どういったデメリットが発生する?

インポスター症候群の従業員がいると、失敗を恐れて「必要以上の確認」や「確実にクリアできる業務しかしない」といった事態が想定されます。

人によっては、追加の業務を拒否する可能性もあります。

すると、業務パフォーマンスが低下し、チームにおける生産性の低下も否めません。消極的な姿勢は、ときに周囲の士気をも下げるでしょう。

またインポスター症候群の人は「自分は成功してはいけない」と考える傾向があり、称賛した上司や同僚に対し、必要以上に謙遜することがあります。オーバーな謙遜がつづくと、周囲も「どういった対応をすればよいだろう?」と、インポスター症候群の人への扱いに悩んでしまいます。

インポスター症候群の特徴

インポスター症候群の人は、どういった特徴をもつのでしょうか?

多く見られる特徴は、以下の通りです。

挑戦することを恐れる

インポスター症候群の人は、自分に自信がないため、仕事がうまくいっても自分の実力ではないと思っています。

自分の実力ではない(と考える)のに称賛されると、騙している罪悪感が大きくなり、申し訳ない気持ちになるでしょう。そのため、「これ以上みんなを騙したくない」と考えるようになり、挑戦を怖がってしまいます、

挑戦しなければ、褒められるような出来事は発生しないと考えるからです。また自分に能力がないと考えることから、挑戦しても良い結果を得られないと思っています。

他人と自分を比較する

インポスター症候群の人は自尊心が低く、劣等感をが強く持っているため、自身の長所や改善すべき課題が見えにくくなっています。

自分を客観的に見られないことから、自分を判断するには、他人という判断軸を使って比較するしかありません。そのため、周囲の優秀な人と比較し「自分はダメだ」と短所が目につきがちです。

するとさらに劣等感が低くなり、他人から高い評価をされた際に「たまたま運がよかった」や「一緒にいたメンバーが優秀だった」と考える傾向にあります。

そのため、いつまでたっても自分の実力を認められません。

もちろん、仕事は周囲の人を巻き込みながら進めるものであり、その成功が全て自分だけの成果であるという勘違いをすることは避けたいですが、成功を収めるうえで自身が関与した部分については、自分を認めてあげるという意味でも、周りの賞賛を受け入れられるようになる方がよいでしょう。

成功への不安がある

インポスター症候群の人は、日々の業務がうまくいった場合には、「ダメな自分を周囲に知られていない=周囲を欺いている」と考えてしまいます。

そのため、日々の業務がうまくいけばいくほど、不安感が増していきます。

成功するたびに自己評価が低下することから、周囲からの評価が高まるたびにストレスも抱えてしまうでしょう。

褒めても暗い表情の従業員がいる場合には、インポスター症候群が背景にあるかもしれません。

インポスター症候群につながる3つの原因

インポスター症候群になってしまう原因は、大きくわけて3つあります。

幼少期からの家庭環境

インポスター症候群の人は自尊心が低く、自分に価値がないと思う傾向にあります。

自尊心は、幼少期の家庭環境が少なからず影響していると言われます。

たとえば、「常に自分の言動を否定されていた人」や「兄弟との優劣を比較されつづけた人」は、自尊心が低くなりがちです。

なぜなら、ありのままの自分を受け入れてもらえず、「あなたはダメだ」というメッセージを浴びつづけてきたからです。

家庭環境の影響でインポスター症候群になる人は、「自分はダメだ」を前提に物事を考える傾向にあるでしょう。そのため、仕事がうまくいっても「成功要因は自分以外にある」と当然のように考えます。

人間関係の積み重ね

人間関係の積み重ねによって、インポスター症候群になってしまうことがあります。

たとえば、「人のサポート役として徹したい」と考える人が、無理難題を言う人たちに囲まれてしまった場合です。無理難題に応えつづけようとするうちに「サポートできない自分がダメだ」という錯覚に陥り、インポスター症候群になる可能性があります。

また完璧主義の人が、優秀な人が集まる環境に置かれた場合に「できないのは自分が悪い」と自身を責めることがあります。

周囲に「完璧じゃなくてもあなたには価値がある」と指摘する人がいなければ、インポスター症候群になることがあるでしょう。

文化的背景

長年において日本は、「女性は男性の一歩後ろで控えるべき」という男性優位の思想や、「周囲に同調する」といった謙遜を美徳とする文化がありました。

昨今の日本では、男女平等や多様化の尊重が叫ばれています。しかし男性優位の思想が一部において残ることも事実です。

こうした日本の培ってきた文化的背景が、潜在意識の部分で足を引っ張り、インポスター症候群の引きがねになるケースも考えられます。

インポスター症候群の改善方法

インポスター症候群の症状がつづくと、本人はネガティブな感情に苛まれてつらいですし、周囲の人間も対処に困ってしまいます。

ここでは、インポスター症候群の改善方法を紹介するので参考にしてください。

完璧を求めない

「〇〇をしなければならない」と考えがちな完璧主義の傾向にあるインポスター症候群は、他人はもとより、自分にも厳しい点が特徴です。

思い描いた結果にならなければ、自分に対しても厳しく責めてしまうでしょう。するとありのままの自分を認められず、自己嫌悪に陥りがちです。

自己嫌悪が大きくなると「自分自身への過小評価」につながり、インポスター症候群が悪化する可能性もあります。

そのため、インポスター症候群を改善するには、完璧を求めない姿勢が不可欠です。

自分を褒める

インポスター症候群の人は「自分には価値がない」と思う傾向にあるため、他人から褒められても響きにくいでしょう。

響かないどころか、相手を騙しているような感覚になり「罪悪感」をもってしまいます。

根本的な部分を覆すためには、自分で自分を褒める姿勢が大切です。

「自分を褒める=自分を認める」につながるからです。

自分を認めれば自信がついていき、他人からの称賛を素直に受け入れられるようになります。称賛を受け入れられれば、日々の業務がうまくいっていることは、自分の頑張りや実力のおかげだと思えるようになるでしょう。

ポジティブになれる環境をつくる

インポスター症候群の人は「自分はダメだ」や「自分には価値がない」などと、ネガティブな感情を抱えています。

そこでインポスター症候群を脱却するには、ネガティブな感情を最低限フラットにする必要があります。理想はポジティブな感情をもてることです。

ネガティブな感情を消し去るには、ポジティブになれる環境に身を置くことが近道です。

とは言え、褒められると罪悪感をもつインポスター症候群の人は、いきなりポジティブな環境に身を置いても心を閉ざしてしまうでしょう。

自分自身でポジティブになれる環境に身を置けるよう、「インポスター症候群のままだと辛い」や「インポスター症候群を改善するとよいことがある」と理解する姿勢が必要です。

将来よりも現在のことに集中する

インポスター症候群の人は、将来に対して不安を抱えがちです。

とはいえ、先のことはだれにもわかりません。不確定な未来について考え過ぎるよりも、現在の仕事やプライベートに注意を向けるようにしましょう。

現在のことについてポジティブな感情を持てるようになれば、自然と将来のことも楽観できるようになるかもしれません。

インポスター症候群への接し方・企業ができること

ここでは、インポスター症候群の従業員への接し方や企業ができることを紹介します。

周囲にインポスター症候群と思われる従業員がいる場合には、試してみる価値があるでしょう。

否定しない環境づくり

インポスター症候群の人は、成功することを恐れ、周囲の称賛を受け入れられない傾向にあります。とは言え、本人を否定することは得策ではありません。

否定されれば「やはり自分はダメだ」と歪んだ理解を示すものの、さらに自尊心が低下し、ますます挑戦を恐れるようになるでしょう。

そのため、企業担当者は「否定しない」環境づくりへの意識が大切です。企業が否定しないと理解すれば、少しずつ自身の成功を受け入れられる可能性があります。従業員が挑戦をしたら、結果を問わず行動した事実を褒めます。指摘をしたい場合には、「〇〇を改善するとさらによくなる」のように、肯定的な言葉を交えながら話をするとよいでしょう。

適材適所への配置

インポスター症候群の人は完璧主義者が多く、自身の失敗を恐れる傾向にあります。そのため、失敗する可能性が少ないポジションに配置することも、1つの方法だと言えます。つまり、本人の得意な仕事を任せるのです。

インポスター症候群の人が得意・強みとする内容を把握し、適材適所に配置すれば、日頃の業務を安心して遂行できます。また本人の得意な仕事であるため、日々において成功体験を積み重ねられるでしょう。成功体験の繰り返しで自信がついていき、インポスター症候群の症状が緩和される可能性もあります。

1on1の実施

インポスター症候群の人は自尊心が低く、自分には価値がないと思いがちです。

1on1を実施すると、自尊心の向上に役立ちます。

なぜなら「1人に対して時間を確保する」姿勢を示せるため、企業がインポスター症候群の人を大切に思う気持ちを伝えられるからです。

また定期的に1on1の機会を設け、本人の悩みを聞き出すことで、なにに不安を抱えるかがわかります。不安点を一緒に取り除いていけば、インポスター症候群の人が安心して働くことにつながります。安心感は、上司や企業に対する信頼感にもつながるでしょう。

信頼できる人たちのもとで働けば、インポスター症候群の人が抱えるストレスの緩和が期待できます。

メンタリングの実施

メンタリングとは、指導者であるメンターが、指導される側のメンティーに気づきを与えながら状況改善を目指す育成手法です。インポスター症候群の人をメンティーとし、メンターと共に歩んでいくと、自己肯定感を高めながら成功体験を重ねることにつながります。

メンターはメンティーであるインポスター症候群の人に傾聴し、気づきを与えるため、ネガティブな発想からポジティブに変化するきっかけづくりに役立つでしょう。

メンタリングについて詳しく知りたい場合には、こちらの記事もチェックしてみてください。

まとめ

インポスター症候群は、家庭環境・積み重ねた人間関係・文化的背景といった、複合的な要素から生じることが多いと言われます。しかし、周囲からの適切な接し方や本人の努力によって、状況がよくなる可能性があります。

自身がインポスター症候群の可能性がある場合には、強みや得意が活かせるポジションへの配置転換をお願いしてもよいでしょう。

また、ポジティブになれるような場所に転職するのも1つの方法です。