「人事は、会社の未来を考えることが第一」
株式会社イード
管理本部人事 渡邊 穂波

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Q
: まず、渡邊さんのご経歴における人事のスタートについてお話をお聞かせください。

私は高校卒業後、後紆余曲折を経て、2001年に人生の転機が訪れました。デジタルフォレスト(現在:NTTコム オンライン)というベンチャー企業に出会い、IT業界という未知の世界に飛び込むことになりました。当時は10名以下の規模でしたので、必要な仕事は何でもやりながら、皆で上場をめざしていました。ベンチャー企業での採用は社長自ら行っていたのですが、あまりにも忙しく、ある日社長より日程調整含め、「採用を手伝ってください」と声を掛けていただいたことが、私の人事としてのスタートになりました。

人事、採用などの経験が一切ない状態でしたから、最初の3年くらいは本当に大変でしたね。広告やスカウトメールを出しつつ、採用以外のところでは労務を学び、一から就業規則を作ったりもしました。「どうすれば成功するのだろう」「どうすれば皆が幸せになるのだろう」と考えながら、社長に言われたことや自分で気づいたことをがむしゃらにやっていました。

同社の経営層には優秀な人材が集まっており、経営学などを一切学んでいない状態ではとてもついていけませんでした。そこでビジネスを一から学ぶことにするために、この頃、仕事をしながら社会人大学へ進学したのですが、本当に勉強が楽しかったです。学生さんはビジネスの勉強をしても実感が伴わないと思いますが、私は実際に会社でやっていることと言葉がリンクしていたので、吸収も早かったと思います。日々徹夜だったので、それは大変でしたが、仕事も楽しかったので、どちらも辞めることができませんでしたね(笑)

Q: デジタルフォレスト時代には、インドに赴任されたご経験もあるそうですね。

はい。南インドに子会社を立ち上げることになり、社長から直々にアサインしていただきました。「誰も行きたくないのです、インドに。これはチャンスです」という社長の言葉は、今でも忘れられません(笑)。最初は戸惑いましたが、確かにチャンスだと思いました。通常海外赴任はTOEIC900点以上とか、部長以上とか、いろいろな制限があるわけです。英語も得意ではなく、社会人として経験の浅い私にチャンスが巡ってきたとなれば、それを逃す手はないですよね。もともと海外への憧れもあったので、勉強しながらチャレンジしてみることにしました。

南インドでは登記からすべて手がけつつ、エンジニア採用などをしました。ところが赴任して約1年経った頃に、リーマンショックが起き、社長から「日本が大変です」という連絡を受け、帰国して社内の整備にあたりました。リーマンショックによる大きな打撃はありませんでしたが、会社がその時点で120名規模に達し、気がつけば事務職の方が無駄に急増していたのです。私はインド赴任の少し前から社長室に入っていたので、そちらで業務効率や業務フローの改善などを担当しつつ、残念ながら人数の調整を行いました。

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Q: 翌2009年にデジタルフォレストはNTTコミュニケーションズに買収されていますが、渡邊さんはどのような役割を担ったのでしょうか。

親会社になる企業とデジタルフォレストの従業員をツナグ部分ですね。相手は大手ですから、一緒になったときにデジタルフォレストの従業員の対応はどうなるのかなど社員が安心できるように調整業務をおこなっていました。買収後は社長室から広報室をたちあげ、通常の広報活動や広報としてのコミュニケーションはもちろん、役員秘書として先方の役員とのコミュニケーションなど、NTTコミュニケーションズとデジタルフォレストを繋ぐ役割を担いました。実はそれまで一緒にやってきた社長がこのタイミングで辞めてしまったので、先方から新社長を迎えるなど、やることはかなり多かったですね。

Q: NTTコミュニケーションズにはどのくらいの期間お勤めになったのでしょうか。

2年くらいです。買収の時点で退職は考えていたのですが、大手では大手なりに学ぶところがあるはずですから、2年は頑張ろうと心に決めていました。そして2年が経ち、区切りがついたので辞めることにしたのです。

でもNTTComでは、多くのことを勉強させていただきました。ベンチャーと大手では、物事の進め方が全く異なります。例えば何か新しいことをやりたいとき、20人くらいの規模であれば「こういうのはどう?」とダイレクトに提案できます。しかし大手では、会議前の情報共有、事後の承認フローが複雑なのです。そういうコミュニケーションの違いは新鮮でしたね。会議の雰囲気なども異なり、まるでドラマを見ているような感覚で働いていました(笑)

Q: 退社時は今後について、どのようなビジョンを描かれていましたか?

漠然と起業を考えていたのですが、休むことにしました。私はそれまでの10年近く、ベンチャーでがむしゃらに走り続けてきました。勉強、仕事、読書だけで、24時間365日があっという間に過ぎていたのです。飲んで遊んで楽しい時代は10年間ありませんでしたね。仕事がないと楽しくない、物足りない、生きていけないなんておかしいですよね。そこで「遊ぶって何だろう」と初めて思い、一旦仕事を手放してみることにしました。

そして選んだのが、オーストラリア旅行です。あわよくば海外で仕事を見つけたいという思いもありましたし、帰国するかどうかもわからなかったので、家を引き払ってから旅立ちました。すべてをゼロにした状態で、私個人の価値を考えてみたかったのです。

オーストラリアでは語学学校で英語の勉強をしながら、やりたいことを思いきり楽しみました。そして1年経ち、シドニーで仕事を見つけかけていたのですが、安い現地給料ではビザが下りないことがわかったのです。お金も底をつきかけていたので、そのタイミングで帰国することにしました。

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Q: その後、イードに入社されるまでの経緯をお聞かせください。

帰国後はセキュリティーのプロダクト販売をしている企業に勤務していたのですが、その際に宮川(宮川洋/株式会社イード代表取締役)から「採用担当者を探している」という話があり、自ら手をあげてみたのです。宮川とはもともと南インドでお会いしたことがあり、その縁で声を掛けていただきました。それと同じタイミングで3社くらいからお話をいただいていたのですが、それぞれの社長さんにお会いして、一番自分らしく仕事ができて、信頼できそうな経営陣の元に決めました。

Q: イード入社時の人事課題について、詳しくお話を伺ってもよろしいでしょうか。

はい。当時は役員ともう1名の方が兼務で人事をされていました。役員は上場準備という大きなミッションがありましたから、そこに力を注いていただけるように私が出来ること、まずは新卒採用に取りかかりました。最初の1年間は前任者がやっていた通りのことをそのままやり、課題を見つけることにしました。また、デジタルフォレストとイードでは欲しい人材が異なるので、経営層と接しながらイードが求める人物像をインプットしました。それが1年目にやったことですね。そして課題をみつつ、ゼロから新卒採用を設計することにしました。

当時、現場の方々は採用とは、目的、自分たちの役割をあまり理解しておらず、面接をすることになっても「何を質問したら良いでしょうか」「何名不採用にしたらよいでしょうか」という状況でした。人材は与えられるものという感覚になっていたのです。そこで社内を巻き込むために、2年目は採用計画書を作って1つ1つ説明し、皆さんに協力を仰ぎました。

その結果、社内に「自分達が採用した」という当事者意識が芽生えました。「あの人はどうなった」「僕が会った人に内定が出た」と、皆が採用に興味を示してくれるのです。やりがいを見出してくれているようで、とても嬉しかったですね。普通のことのようですが、自分の業務を抱えながら採用する人材に心から関心をもつことは意外に難しいのです。エージェントにお願いしなくても、「自分達でも新卒採用ができるんだ」と自信を持てたことは非常に大きいと思います。

Q: 教育に関してはいかがですか?

採用と同じく、1年目は引き継いだことをそのままやってみました。新卒の研修に1ヶ月という時間をかけても、「どんな人材になってほしいのか」が伝わらないと意味がありません。ですから採用と同じように、経営層からインプットされたことを実現するためにはどういうコンテンツを入れればいいか、1ヶ月でどういう風に仕上げればいいか、社内の方々にはどうやって協力してもらうかをひたすら考えました。手応えを感じるようになったのは、3年目くらいですね。新人の社内へのなじみが良くなりました。研修を通して見えたことはすべて各部門にフィードバックしているので、どういう新人が入ってくるのか現場も心構えができているんです。

ただ、採用も教育も課題がなくなることはありません。私自身も、経験値はあってもゼロリセットに近い状態ですから、毎年模索しながらやっています。

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Q: 渡邊さんにとっては初めての業界ということで、苦心される部分も多かったでしょうね。

そうですね。同じITとはいえ、メディア業界は初めてですから、研修では新卒と一緒に勉強しました。社内のことを勉強できるチャンスは少ないので、中途で入った方にも必要と思えば声をかけています。私達にとっても教育の研修になりますから、皆の反応を見ながら毎年の教育に反映しています。

Q: 人事にとっての大きなミッションである新卒採用について、渡邊さんのお考えを伺いたいです。

新卒は大切です。我々はメディア事業を中心に事業拡大している分、より幅広い年齢層の人材が必要です。現在は40以上のサイトを運営していますが、いろいろな人の意見が反映されなければ良いものができないんですよね。特に新卒には若者ならではの発想がありますし、新しいメディアを立ち上げる力もあるはずなので、大きな期待を寄せています。

新人って面白いんですよ。例えば「アニメが好きです」と入ってきても、必ずしもアニメの担当になるとは限りません。そこで1年後に「やっぱりアニメに行きたい?」と聞くと、「ビジネスが楽しいです」と答えが返ってくるんです。趣味がビジネスになるわけではないから、アニメは趣味のままでいいと言う事もあるのです。そういう時は大人になったなと感心しますし、逆に「やっぱりアニメが大好きです」という答えでもいいと思います。そういう判断のチャンスをたくさん与えて、将来ビジネスをやりたいのか、専門性を極めて記者や編集者になりたいのかなどを見極めてあげたいですね。

Q: 2015年3月にマザーズ上場を果たしていますが、採用に影響は出ていますか?

今のところ大きな影響、変化は感じていませんが、懸念はしています。上場企業だからという理由で来る学生さんもいるでしょうが、安定感を求めて来る方は、我々には向いていないと思うので、そこは徹底的に確認していきたいです。

Q: 採用に関して、イードならではの工夫はございますか?

最終面接前に一度学生さんをお呼びして、本当にうちに来たいかを確認します。最終面接は通常、役員が出ますよね。そこまで進むということは我々としては欲しい人材ですし、そのために役員の大切な時間を割いてもらうわけです。かつてのイードの人事は役員のジャッジのもとに成り立っていましたが、この3年間は「我々が人を選ぶ」ということが軸になっています。ですから最終面接前にあえて呼び出して、本人の意志を念入りに確認しています。

そこで意志が定まっていない、あるいは違和感があった場合は、最終面接はこちらからお断りします。「お互いに今は保留にしませんか」ということで、他社選考をして「やっぱりイードに行きたい」と思ったらもう1回声を掛けてもらい、その時点でうちに採用したい気持ちがあれば、改めて面接をするという流れです。最終面接はそのくらい真剣勝負ですし、本気で向き合うことで信頼感が生まれると考えています。

こだわるのは、相手のためでもあるんですよ。中途半端な状態で最終面接をしてお互いに無駄な時間を過ごすよりは、いい時間にしたいのです。最終面接前にストップをかけることもあるため、採用枠が埋まらないのでは?と不安になることもありますが、経営層も「人数合わせのために採用する必要はない」という考えなので、安心して臨んでいます。時々、周りから「ひどい」と言われることもありますが(笑)

Q: 採用に熱を入れていらっしゃることが伝わってきます。やはり採用計画の達成度は高いですか?

年によってムラがあります。学生さんも年々変わってきていますし、会社のフェーズが1年1年違うことも影響していると思います。こちらが集める層も、来る人達の層も、毎年異なります。例えばインターンシップも去年は営業寄りで、今年は編集寄りのことをしています。ちゃんとそこには意図がありますし、今までと違う人達にメッセージを送ったらどうなるのか、という試みでもありますね。

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Q: 渡邊さんにとって、人事のやりがいとは何ですか?

私、仕事が趣味なんです。こんなに楽しいことはないですよ。特に、採用は楽しくなければ心が折れる仕事だと思ますよ。必ずしも人を救えることではないですし、人事には従業員からの相談で良い話はほとんどありませんから(笑)

そこを楽しめるのは、現場の人が「この人がいてよかった」と思ってくれる瞬間があるからですね。もちろん言葉通り「いい人材を採用できたな」という思いもありますが、私が何より嬉しいのは現場に対してなんです。いい素養を持っている人材でも、成長できるかどうかは環境次第です。ですから「いい人」がいるということは、周囲にいい人が揃っている証拠です。人を育てながら現場も成長しているということですから、とても安心できますね。

Q: ありがとうございました。最後に、人事についてお悩みの方や、人事をめざす方に向けてメッセージをお願いいたします。

まず、優秀な(活躍できる)人事を採用したい経営層の方は、信頼できる方を見極めてください。人事の仕事は広報に近く、経営層の思いをどうやって採用に繋げるか、どうやって伝えるかが重要です。そのためには、人事が経営層と一体にならなければいけません。「この人なら何とかしてくれる」と思える方とお互いに信頼し合うことが、良い人事への近道だと思います。

また、人事や採用担当者になるためには、会社の未来を考えることが第一です。採用は、戦略以外の何物でもありません。経営層の動きを常に見ながら、「どういう人がこの会社に必要になるか」を考える力が求められます。私の場合はこれまでずっと、経営者の机にどんな本があるかを見てきました。どんなことに興味を持っているのか、どういう情報を得ているのか、どういう思考回路で今動いているのかを考えれば、会社の今後の動きがおのずと見えてきます。「こういう人が欲しい」と口で言われることはありませんでしたが、経営層を観察してロジックを自分の中で組み立てます。そこと実際のビジネス上の課題を照らし合わせて、どんな人が必要かを考えます。そして、課題解決能力がある人を入れるのか、補完する人を入れるのか、外注できる人を入れるのかを判断していくのです。そうやって未来を見る力が、人事には必要だと思います。

渡邊 穂波 プロフィール
影響された本 ビジョナリー・カンパニー
部活 ランニングクラブ(部長)・西新宿ワイン部
好きな言葉 平常心是道(へいじょうしんこれどう)