「人事は会社の顔、まずは人が好きであること」
株式会社ベネフィット・ワン
取締役副社長 鈴木雅子

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⚫キャリアを通じて磨いた見極める目

Q:パソナに入ってから今まで、どのようにキャリアを積んできたかからお聞かせください。

A:船会社から転職でパソナ(旧テンポラリーセンター)に入社し、人材派遣の営業部にて内勤・外勤を経験後、営業の全国拠点の立ち上げを担当し、人事・教育においては、社員研修のみならず派遣スタッフの登録時研修の立ち上げにも携わりました。特に営業部では責任者として全国の営業本部長、拠点も東京を中心に名古屋勤務も経験し、当時は派遣スタッフの面接や教育に注力し、企業の依頼に応じて人選をする業務ですからメインは人事部の仕事に近いと思います。また、社員の新卒・中途採用と社員研修、業務オペレーションマニュアルの作成とそれを元にインストラクター養成などを担当しました。ホールディングスカンパニーとなったパソナグループに於いては、法務、コンプライアンス、総務の業務を担当し、その後、グループの事業体であるベネフィット・ワンにて人事、総務、法務・コンプライアンスを主に管掌しています。振り返ると会社が大きくなるにしたがい、ポジションが変化して幸運にも多くの経験ができたと思っています。

Q:パソナでは人事担当がメインだったのでしょうか。

A:メインは営業だと思いますが、人材ビジネスは人と企業を結び付ける仕事でしたので、ほぼメインが人事と言っても良いかもしれませんね。企業の依頼に応じて人選をしてゆきますので、登録スタッフの人となりを理解しておかなければできません。その企業に合った、スキルの確認を見極めてゆく業務でした。その時の人を見る目が養えたのは、営業時代の経験からだと思っています。

Q:新卒の場合、どのようにして人を見極めるのでしょうか。

A:新卒の採用は本当に難しいですね。1回の面談の時間は10〜15分といった短時間ですので、合う回数を増やしその場その場でのやり取りを中心に見ています。これから長時間一緒に働くことを考え、普段のその人なりを出してもらったほうがよいですが、なかなか出てきません。そこで、面接待ち時間の使い方や社員との会話などを通して面談では見えにくいところの対応を若手社員に聞くようにしています。新卒の場合、最初から技術や経験があるわけでもありませんので、言葉では頑張ると言っても、実際には入社して初めて解ることの方が多いですね。

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Q:その人が頑張れるかどうかは、どういったところに表れるのでしょうか。

A:まずは、面接を受ける際の“態度”と“受け答え”です。学生時代の部活やサークルでの活躍がしっかりとしている人は体力、気力も結構あります。グループ面接では、先に誰かが答えると、他の人がそれに沿った答えをしていくので個性はあまり見えませんが、個人面接では、複数の面接官がそれぞれ違った質問をしますと、本人そのものの意見が聞け、その人の個性も見えてきます。例えばどのような質問を予想していてその回答はどのような回答かなども伺ってみると結構さまざまな意見が聞けます。それまでに面接官が聞いてない内容であれば、用意していた答えが活かされ、自ら話を展開してくれます。臨機応変な質問も見極めるポイントです。

Q:そういったポイントは、中途採用では異なりますか。

A:中途採用は、先に情報が送られてきますので、ある程度の経験やスキルは把握できますし、新卒採用よりは仕事に直結した話を突っ込んで質問が可能です。また、中途採用は転職理由も大きなポイントです。退職理由が明確でない場合や、やりたいことがはっきり見えていないのは困ります。当社で何に貢献でき、何をしたいかが明確であってほしいですね。長期のスパンで経験を活かし働く意欲がほしいです。

Q:どのようなところに差が出てくるのでしょうか。

A:仕事経験のある、なしでは大きな違いが出ます。新卒はこれから習得することが多いので、仕事への意欲や努力が必要です。中途採用は、今までの経験に自信をもって自分を語れるか否かが大きな違いですね、退職理由は新卒では必要なしですが、中途採用では大きなポイントです。今の会社では自分の役割が終わって一段落し、次のステップを踏みたい人は、転職しても一段落したらまた次のことを求めるかもしれません。転職の目的はしっかりとしておいてほしいですね。諦めが早く、癖になるような転職は禁物です。常に指示待ちでいた人は、目の前の業務に行き詰まりを感じると逃げ場を作ってしまうのかもしれませんが。今までの経験をもとにもっと自分を試したい、さらに力を付けたいから転職するのだと思います。しかし、その理由がどういう理由かによって職場を変わっても同じことが起こり得ます。ただ転職したからそれで終わりではなく、そこから新しい挑戦が始まるという意識が大切です。

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⚫積み重ねと更新で作るマニュアル

Q:採用後の教育システムはどのように作っていかれたのでしょうか。

A:業務研修と社会人としての基礎研修、スキルアップ研修がありますが、業務研修は、はじめは社員も少なく、現場でのOJTを主に先輩が後輩と同行し、それを見ながら後輩が学ぶことでした。次にはそれをマニュアル化し、次の世代に引き継いでいました。仕事を始めた頃に、同じことを何度も聞くことが嫌で、自分でノートを作りました。ノートに五十音順にページを作り、常に質問と答えをメモするようにしました。それを基に業務オペレーションマニュアルを作成し、基本マニュアルに沿って研修を行うようにしました。フローが理解できれば、自分の仕事の歴史ですから結構うまく作れます。業務研修、年次別研修、スキルアップ研修・・と順次教育システムをプラスしてゆきました。はじめは、自分なりのノウハウでしたが、それが実務研修に変わり、人事教育のスタートにつながったと思います。社会人研修やスキルアップ研修はグループ内の教育システムを活用し、自社に合うようにアレンジしながら実施しました。

Q:そのマニュアルができる前はOJTだったのでしょうか。

A:今でもOJTは必須ですが、まだ会社も小さく少人数であったため、入社時は先輩が横で教えながら学ぶ体制で足りていました。しかし、人が増えてくると、教える時間がなくなります。会社が大きくなると、一定のルールに従った仕事をしなくてはならない、そこで、業務マニュアルの研修がスタートしましたが、そこで先輩格にオペレーションマニュアルの作成をしてもらい、新人社員が入る前年から約半年かけてインストラクターとしての養成をしています。この制度を毎年、年次下のメンバーに切り替え、養成された先輩社員が新人社員の研修をします。毎年このマニュアルを翌年のインストラクターが見直し、それを基に教えるという流れです。先輩社員と新入社員双方にとってのOJT研修につながっています。また、業務の幅広い知識を身に付けるため、1年間東京⇔松山間の国内留学を経験できる制度を設けています。留学した社員は他部署、支店で学んだ知識を社員に共有することで、全体のレベルアップにつなげています。

Q:そうすると、半年で一人前にするような研修が組まれているということですか。

A:インストラクター育成に関してはそうです。ですから、現場で教える先輩も必死です。入社時には、マナー研修はじめ様々な研修メニューがありますが、重視しているのは現場で先輩が一緒に付いて学ぶくりかえしのOJT研修です。先輩の姿を見て覚えるのが大きいですから。また、新入社員は3カ月ごとにフォロー研修を実施しています。その研修では、会社のサービス内容から制度や風土に関して改善提案を行います。社会人として初めて経験することに、『ここがおかしいと思う、じゃあ、どうしたらいいんだろう』と、ディスカッションをしながら実行に移してゆきます。自分が提案して、やると言ったことはやらざるを得ない、そのような環境から社員一人一人の成長につなげています。6ヶ月と言わず、早め早めの育成は大切です。

Q:それ以降の研修についてはいかがですか。

A:集合研修と個人のスキルアップ研修があります。集合研修は年次別研修、責任者研修、コンプライアンス研修などがあり、個人ではeラーニング等を使ってそれぞれの部署や業務に必要な研修を会社が一部負担をして受講しています。当社が提携をしている研修のカリキュラム、eラーニング、業務に関わる研修をフルに活用するよう自己啓発を促しています。併せて、2012年からの海外展開に伴い短期間での海外語学研修を推進しています。期間は2~4週間で業務に支障のない限り希望を募っています。また、海外留学に参加できない社員やさらにスキル向上を目指す社員は、国内で『ベネワン朝活・夕活英会話』も開校しています。海外を目指す社員など年齢幅広く参加をしています。

Q:会社全体として社員のモチベーションを上げていく施策はありますか。

A:モチベーションアップの施策は、『ジュニアボード制度』として毎年1年を任期に選抜された社員が社長直轄で様々な経営課題に取り組み、トップとの意見交換や情報共有を行うと同時に具体的なプロジェクトを推進してゆく制度があります。この制度を使用し、社員の『発想力』『判断力』『経営感覚』の養成を目指しています。また、社内ベンチャー制度により、年1回、社員が新規ビジネス案を社長はじめ経営陣に直接提案をすることができます。存在価値や収益性が認められれば事業化のチャンスです。年次や役職に関わらず、当社ならではの環境の中で新規事業の企画・推進力を身に付けることができます。

また、インセンティブ事業部が提供するサービス「インセンティブ・ポイント」を自社でも導入しています。会社を好きになって、より意欲的に働けることや社内のコミュニケーションの活性化を意図して作られた制度です。営業でMVPを取ったり、資格に合格した際の付与基準が決まっており、ポイントは個人ごとに貯められ、貯めたポイントで約1万5千種類のアイテムやサービスと交換でき、モチベーションアップに寄与しています。

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⚫スピード感と流動性のある組織

Q:御社の意思決定は主にトップダウンとボトムアップのどちらですか。

A:今はまだトップダウンだと思います。しかし、若い社員の多い弊社では、社長・役員と若手社員とのディスカッションの場を多く設け、トップからビジネス感覚を肌で感じ、スピード(=チャンス)が重要である、ということを学びます。この学びを得て、自らの意見をあげて即実行すること、自由な発想を受け入れつつある現状はボトムアップへと変化する環境に近づいています。

Q:スピード感を促すための施策はありますか。

A:チェック機能の強化だと思います。PDCAがきちんと回っているかどうかの確認を定期的に行うことではないでしょうか。一つ一つの事例に対して、すぐに動くことの徹底を強化し、出来た、できていない、という事実をチェックし、いつまでに、という時間軸を決め、報告の徹底を促すことと感じています。そのためには、チーム内、グループ内での情報の共有化と思います。毎朝全体朝礼を実施しており、全体の共有を図っています。その後チームごとに具体的な今日の予定を確認し、協力体制を組むことを実施しています。

Q:独自に開発したPDCA表などはおありですか。

A:PCの活用でお互いのスケジュールが閲覧出来、予定なども各自が入力しています。これを基に朝の朝礼後、夕礼時に確認し、今日の積残しと明日やるべきことの確認を実行しています。自己管理の徹底をするとともに、お互いがチェックできる体制が整いつつあります。

Q:管理体制としては、何名ぐらいでまとめてらっしゃるんですか。

A:様々なセクションがありますので、一律ではありません。部長、グループ長、チーム長そしてチーム員です。1チーム10~15人くらいをチーム長がまとめています。

Q:配置の適性はどのように見ているのでしょうか。

A:売り上げや部署特性、本人の経験も考慮して配置をしています。特に経験が必要な部署では中途採用やキャリアアップを希望している社員を配置するよう心がけています。年1回社員一人一人が自ら考えるキャリアプランを直接人事部へ申告出来る制度があります。キャリア実現に向けた具体的なステップアップを人事部とともに考え、実践してゆく仕組みです。その制度を基に希望を叶える配置も検討しています。また、社内だけでなく、パソナグループ全体で海外事業等の新規事業からプロジェクトまであらゆる社内のポジションについて公募をします。経験や年次を区切った案件はほとんどなく、挑戦したいと思う人に平等に権利を与え、主体的にチャレンジできる環境を提供しています。これは、上司を通さずに応募でき、決定した際に現場に落ちてきます。ベネフィット・ワンに入っても、ベネフィット・ワン以外の仕事もできますし、逆に別の会社からベネフィット・ワンに出向で来ている人もいます。グループ間の流動化は結構進んでいます。

Q:逆に言うと、組織が固まるのは難しい部分があるのではないでしょうか。

A:今は、アメーバー組織で何時でもその場の環境に合わせ、動きがあることを社会は求めています。入社時からグループでの入社式や研修を一緒に受けており違和感は感じないと思います。大きな目標が一緒で、プロセスは各社の考えで実行する。仕事の中身や流れは多少変わっても、そんなに大きな違いはありません。入社時からすると人は成長していますし、仕事の中身も変化をしていると思います。出来れば社内のノウハウを外に出すのではなく、グループ内で共有ができればノウハウの流出は防げます。その意味ではオープンポジション制度は、グループの活性化につながっていると思います。

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⚫人事にとってのお客さんは社員

Q:今後への課題と感じてる部分を教えてください。

A:若い社員の多い会社ですから、管理職者の育成です。なお、女性社員も多いことから女性管理職の起用・育成も重要な課題です。まだ成長過程のビジネスでもあるので、全てにおいてがんじがらめにするのではなく、自由さを持った組織にしておくことです。ひとりひとりの意見が出しやすく成果に対して評価がついてくること、働く女性を応援できる会社組織でありたいと考えています。これは社員と会社でツーウェイのコミュニケーションが取れていることも大切ですので、今後の課題です。一人一人の社員が判断力を持ち、何ごとにも一生懸命さを失わない人材を育ててゆきたいと考えています。

Q:採用基準はこれからも変わらないのでしょうか。

A:おそらく当分はないでしょうが、社会のインフラが変わり、当社のサービス内容に変化が生じれば、それに合った人材は必要ですので変化はあるでしょう。採用基準を変えすぎると今までの社員との調和が崩れます。ただし、大幅な基準の変化はなくとも新しいビジネス展開に於いては幅広い人材の採用は必須ですので。

Q:組織における人事の役割をどのように考えていますか。

A:会社の顔として重要な位置にいます。当たり前のことをして、初めて認められる部署だと思います。何かを依頼されてやるのは人事ではなく、組織を円滑にまわしてゆくためのノウハウは、『社員がああしてほしい、こうしてほしい』と思う前に動いてあげること、来社されたお客様と同様と思い、いやな顔をせず動いてあげることですね。家で言う母のような存在であると思います。常にいてほしいでもなく、いてくれないと困る、存在だと思います。

Q:今後、企業の人事を目指す方へメッセージをお願いします。

A:本気で人事を目指すなら、まずは人が好きであること。誰からも安心感をもたれる人であること、相手の良いところを見つけそれを活かす手段を持っているということです。次に、多くの情報を取るためのネットワークがあること。意見よりも事実を用いて説明ができる人であってほしいものです。人を見抜くという点では営業でもお客様が理解しやすい言葉で会話し、理解されたか否かが重要です。人事も同様で、多くの人と会話して相手の考えを受入れ、そして自分を受け入れてもらう姿勢が大切です。人の価値観はそれぞれですが、会社が大きく成長するための人材は金太郎飴でもなく、さまざまな分野で一人一人が活躍し成果に結び付ける人材が必須です。人事の採用は、会社を代表して面談をしていますので会社の顔としてもモラルは高くあってほしいです。一人一人の人生を預かる人事部としての使命は責任重大です。自らの使命感を発揮できるのも人事部としての醍醐味であると思っています。

鈴木雅子 プロフィール
好きな言葉 「善は勝つ」
好きなお酒 ワイン
休日の過ごし方 外が好き。冬はスキーで、夏は山。