最高人事責任者:組織を動かす挑戦者たち

「いかに多くの社員を満足させるかが、HRとしての志」 株式会社グリムス 取締役 善村賢治


 

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Q:今に至るまでのご経歴をお話し頂けますか。

 一番最初は調理師として飲食関係で5年ほど働いていたのですが、体を壊したことをきっかけに辞めました。

 1982年にサラリーマンとして最初に入ったのは、消費者金融の会社でした。最初は営業店舗で営業事務を経験し、そのうち支店の責任者を任されるようになって2年半ほどで、本社のバックオフィスに異動となりました。1990年に10か年度の長期計画をつくる『21世紀ビジョン』という社内プロジェクトが立ち上がり、そのメンバーに選抜されてそのまま会社の上場準備に入りました。91年から上場準備を始めて今でいうJASDAQ上場(当時は店頭登録)を2年間で実現して、またその翌年には東証二部上場、またその2年後に東証一部銘柄指定、ということで経歴を積みました。一部上場して2年間ほどは経営企画部で、主に組織関連の仕事などに携わりました。その後、たまたま知り合いの会計士の方から、全く異業種の会社で上場を目指している会社があるというお話を頂きました。その消費者金融会社には16年在籍し、私はおそらく39歳だったと思うのですが、これが転職の最後のチャンスかも知れないと思って、転職しました。

 家庭用ゲーム機向けにソフトウェアを制作する会社でした。取締役として2年間ほど上場準備をしたのですが、エンターテインメント系の業界は浮き沈みが激しいこともあり、2年目くらいには業績が頭打ちしてしまい、上場準備も停滞状態になってしまいました。2000年に、また別の会社が上場準備をしたいということで、そこに移りました。業務用や家庭用ゲーム機向けソフトウェア制作やオンラインゲームを運営する会社でした。しかし、そこも移って2年半くらいで業績が厳しくなってきて、上場に関して一時ペンディングとなりました。その会社には結局5年ほどおり、管理部門の統括をしていました。そして今度は携帯電話向けのコンテンツ配信をしている会社の副社長からお誘いを受けて、2005年に入りました。ところが、2011年に親会社を持つことになり、最終的にはそこに完全子会社化されるというということで、私も退職しました。

 2012年に、たまたまグリムスが間接部門を統括する役員を探していたので、そこに部門長ということで一旦入社して2013年の6月からは取締役、という経緯です。

 

Q:人事で採用と配置も長くされてきたんですか?

 消費者金融会社に関しては、私がスピンアウトしたのは16年前くらいなので今はどうかわかりませんが・・・。新卒・中途の採用、中途の採用意欲が業界的にも非常に高い会社でしたし、またピークで全国に530支店くらい店舗を持っていましたから、現地採用も含めて、年間で3,000名の採用をしていました。ただ、人事配置に関しては人事部門があまり権限を持たず、適正人事配置といったところは基本は営業側の立案に基づいて執り行われていたというのが実態です。

 それ以降のソフトウェア制作会社、オンラインゲーム運営会社、携帯コンテンツ配信会社は、ほとんどがコンテンツ系、エンタメ系の会社なので85%くらいがいわゆる開発者やクリエーターと言われる人たちで構成されていました。この場合もやはり、現場で指揮を取る人間に圧倒的な権限を与えていましたよ。技術職に関しては特に、現場の人間が面接をして、プログラマーならプログラマー、デザイナーならデザイナー、サウンドをつくる人間ならサウンドをつくる人間、のスキルを見るということですよね。

 ですから、人事部門としての役割は、新卒・中途採用と労務まわり、現場ではない間接部門の中での人事的な部分、というところでした。

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Q:善村さんが人事制度の中で特に重要なポイントだと思われるのはどこですか?

 グリムスの場合は当てはまるかわかりませんが、ベンチャーの中って、プロパーがずっと取り仕切っているわけではなく、色んなバックグラウンドを持った色んな従業員がいますよね。そうなるとやはり従業員の満足度を平準化させるためにどうしようか、というところが大事なんです。人事企画的な要素ですよね。

 あるIT系企業さんには、おもしろい人事制度や福利厚生制度などがありますよね。経営者側の発想で、優秀な従業員をどうやって採用して囲い込みをするかなどの制度構築などが必要なんです。そして、今いる既存のメンバーと新たに取ったメンバーをうまく平準化させて、みんなが満足度一定の水準で維持できる状態にするんです。昔、ES(Employee Satisfaction : 従業員満足度)という言葉が流行りましたが、前の会社ではそこの部分を気にしていましたね。

 

Q:具体的にはどのような内容の施策をされるのですか?

 私はエンターテイメント業界に13年ほどいたのですが、この業界は実力主義的な部分が強く、開発者やクリエーターの方々を評価する際に、年功序列的な要素はできるだけ排除される傾向が強いんです。つまり、完全実力主義ですと言った瞬間に、その言葉だけで勤続での貢献度を除外する動きがあるのです。

 でも5年間在籍したということは、5年間分の会社に対する貢献というのがありますよね。だから、私はそれも制度上に取り込んであげられればいいと思っています。例えばですが、評価要素の中に年功というものが1%含まれていてもいいのでないか、と。

 もちろん、入社1年の人の中にも、スーパースターがいてとんでもないヒットを打つ人もいるのですよ。それは違うインセンティブを与えてあげれば良いですし、要は従業員が会社に対してどういうロイヤリティを感じられるかというのになるべく応えられるような制度がいいですね。

 はっきり言ってしまえば、絶対不公平のない人事制度なんて作れるはずはないのですが、評価テーブルや給与テーブルを見直すことで満足する人の割合を上げたり、一人一人の満足度を上げることはできます。給与テーブルを見直すとみんな期待するのは「あ、また上がるのかな?」と(笑)。でも、そうではなくて基準を適正にするだけなんですよ。

 例えば5人いたら5人全員の満足度が8割9割あればいいでしょう。一方、5人のうち1人は100%満足していても、1人は50%未満の満足度だと制度上問題があるでしょう。具体的にどうしたのかを細かいところまで落とし込むと、すごく細かいオペレーションの話になってしまうのですが、基本の思想としてはそういうところです。どうやって従業員の満足感を少しでも平準化できるか。そういう平準化をすることによっておそらく退職率などというところも抑止できるのだろうと思います。

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 私が携帯向けコンテンツ配信会社にいた時は、評価制度を全部変えてしまいました。行動考課的な部分と、業績考課的な部分を完全に分離しました。

 行動考課は、個人のポテンシャルの部分で評価をします。常日頃からの取り組みを見る部分なので、評価期間に関わらず過去からの積み上げで、今この人がどういう位置にいるのかというのを評価してあげるのです。

 業績考課は潜在的な能力を問うわけではなく、評価期間だけ、たとえば6ヶ月ならその6ヶ月間だけの数字と行動で評価をします。

 これらのフィックスで総合評価が出てくるような仕組みに変えて、それに応じて、細かい話ですが給与テーブルも極力細分化したのです。ピッチをどんどん小さくしていって1つのレイヤーに50ランクとか。極端な話、下の方のランクだと、月額で数百円きざみのテーブルにしてしまうのです。

 行動考課はレイヤーごとに共通テーブルを作ってしまいます。レイヤーと言ってもせいぜい5つから8つくらいのレイヤーなのですが。その人たちのミッションを決めてしまうわけです。

 一般職、リーダークラス、マネージャークラス、シニアマネージャークラスくらいなどに分けて、求める人物像について定義してしまうのです。こういう行動ができる人はマネージャー、という風に。それが行動考課の元になる評価軸ですよね。

 業績考課の方の評価軸は、これは各自に目標設定しています。会社の全社目標がありますよね。これは定量的なものも定性的なものも全て入っています。それが部門に落とされて、さらに個人に落とされて、そして自分で目標設定をして、その目標が評価をする側の評価者とすり合わせをして確定しますよね。評価期間の終わりにどの程度できていたか、というのが業績です。

 これらのミキシングでその人の評価が決まります。

 

Q:グリムスさんでも人事制度を変えたりはされたんですか。

 いえ、グリムス自体はホールディングスなので、各事業会社に対しての経営管理監督やバックオフィスとしての機能を持っていますが、実際の制度構築などは各事業会社がオリジナルでしています。グリムス側から各事業会社に対して大きくサジェスチョンをすることはあっても、ディテールに至るところまで、極端な話、テーブルをこうしましょうとか評価軸をこうしましょうというのはしていません。

 採用に関してはグリムス側で全部行っています。新卒や中途の採用はグリムスと各事業会社が、採用人数から募集媒体も含めて調整をとって、予算自体はグリムス側で全部とっています。新卒採用の場合は全て、第一次面接はグリムス側の人事部署のメンバーがやります。二次は事業会社の役員が面接をして、その営業職としての判断をしている、という二段階選抜にしていますね。

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Q: 最後に、善村さんが考える人事とは、どんなものですか。

 これは本当にベタな言い方になってしまいますが、人って財産なんです。金融、エンタメ、コンテンツ、そして今の営業会社、どの企業にいてもそうです。また、それはものを作ろうがものを売ろうが何をしようが、それが間接部門でも同じように、人は財産だと思っています。

 会社という組織の中で人事部門が権限を持っていても持っていなくても、営利を追求する会社の一番源泉になるものが人事であり、人であると思います。人が収益の源泉だという言い方は問題はあるかも知れませんが。でもそれは設備でもなければ、ノウハウでもなければ、商材でもないのです。

 

Q:これから人事を目指す方や今人事をされていらっしゃる方にメッセージはありますか。

 収益の源泉を支える一番の基軸が人である、ということを常に考えています。採用をしていても、労務管理をしていても、給与制度に関しても全て、いかに人に優しく、要するに人を活かせるかが大事です。災害のときも、配属替えのときも、評価のときも全てにおいてそうですよね。

 どうやって人を活かせるか、またその活かせるかという考えるその前の段階で、個々人をどうやって満足させることができるか、というのを私は人事の一番の基本のところだと思います。100人の社員が100人とも満足できないにしても、いかにそれに近づけることができるか。それが人事をしていく上で、人というものに触れていく中で一番大事なことなのではないかと。それが8割がよいのか7割がよいのか、あるいは50%超えてればよいのかは、色々あるかもしれませんが、とにかく今よりは良く、ということだろう、と思いますよ。

それがヒューマンリソースと言われる、そういう役割を担った方たちの志と言いますか、目指すべきものなのかな…ずいぶん偉そうに言っていますけども(笑)

 

 

善村 賢治 プロフィール
生年月日 1959年2月24日
好きな場所 生まれ育った海
好きな本 『君よ朝の来ない夜はない』 扇谷 正造
好きな映画 007シリーズ
座右の銘 when there is a will, there is a way.(意志あるところに道は開ける)

 

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