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「成功するための唯一の方法は、成功するまでやり続けること」
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社
取締役 CTO 石川雄樹


 

asaas_top1Q:石川さんは、いつ頃技術と出会われたのでしょうか。

  僕は少し遅咲きで、大学で技術に出会いました。僕が専攻していた計量経済学という分野は、つまりは統計学です。コンピューターでスクリプトを書く機会も多く、90年代前半でしたが学内ではインターネットも使うことができました。その経験からITに可能性を見出し、卒業後はNTTデータに入社したのです。同社ではエンジニアリングの基礎を学びつつ、シリコンバレーでの開発などにも関わらせていただきました。

 ただ、次第にSIerのあり方に疑問を感じるようになりました。実際にシリコンバレーの会社と開発をし、自社プロダクトが当たり前の社会を目の当たりにしたことも大きかったですね。日本に限らず、ITを輸入する国ではSIerが力を持っているようです。そういう国では、他国から持ち込んだデータベースやソフトウェアをインテグレートするのがIT産業ですから、自然とSIerが強くなります。しかし、SIerで毎日終電で帰りながら他人のシステムを作るより,同じかそれ以上がんばって自社の製品をつくるプロダクトカンパニーで働きたいと思い、リアルコムに転職しました。

Q:リアルコム時代のエピソードをお聞かせください。

 リアルコムは本当に素晴らしい会社で、今でも心から感謝しています。しかし、すべてが早すぎる会社でした。例えばリアルコムは2000年の段階で、Q&A、ソーシャル、コラボレーションが一体化したサイトを作っていました。そのサイトには通貨の概念を取り入れており、人から人に知識が流れると通貨が動きます。そこからソーシャルグラフが生まれ,それを元に価値ある知識、人を見つけるという、大変画期的なシステムになっていました。リアルコムのOB達は、「15年経つけど、あれを越えるものは未だに見ていない」と口を揃えて言います。会社のビジネスモデルがBtoBに移行したことを受けて、そのサイトは社内コミュニケーションツールとして移植されました。何か問題解決をしたい時に質問をすると、社員が答えてくれるシステムです。そこには通貨に代わって時間の概念が取り入れられており、「自分で調べるよりも何時間短縮できた」というのが指標になります。その時間の合計がナレッジマネージメントのROIになります。その人のプロフィールページで履歴を見れば、その分野のエキスパートをあぶり出すことができるんです。素晴らしいですよね。今の技術で作り直しても、かなり人気が出るのではないでしょうか。

 しかも、当時のリアルコムは社員数20名ほどの小さな会社です。しかしながら優秀な人材が集い、まだソーシャルという言葉がない時代に、ソーシャルグラフを活用した多くのプロジェクトを手がけていました。取引先は、そうそうたる企業ばかりでした。例えば僕は入社直後からソニーさんのプロジェクトを担当しましたし、最も大きな仕事はあるメガバンクのプロジェクトでした。メガバンクは、日本一システムに厳しい会社です。そこで何万名もの行員が使うシステムに、わずか20名のベンチャーがつくったパッケージが採用されたんです。その銀行が合併して超超メガバンクになった今でも、そのシステムは使われています。その仕事を契機に、リアルコムは上場まで成長することができました。

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Q:上場前後、石川さんはどのような役割を担われていたのでしょうか。

 リアルコムが上場したのは2007年のことですが、僕はその前年からシリコンバレーに出向していました。当時手がけていた仕事も、今思えばやはり早かったです。協調フィルタリングとHITSアルゴリズムを使ってソーシャルグラフから最適なニュースをピックアップするという、キュレーションのようなことをしていたんです。僕はずっとRubyが好きだったので、ちょうどその頃出てきた1.0以前のRuby on Railsと高速な計算ライブラリを組み合わせて作っていました。当時は今のようにRubyが普及しておらず、スタンフォード大学のブックストアにもRubyの本は3冊くらいしかありませんでした(笑)ただ、Railsは当時のエンジニアが抱えていた問題、Webアプリケーション開発は単純作業と反復作業の繰り返しで生産的なことになかなか集中出来ない事、そこをすべて解決していたので素晴らしいと思い、ほとんど普及していない段階で嬉々として採用しました。

 

Q:その時代にキュレーションにチャレンジしたのはなぜですか?

 1つは、今で言う「ソーシャル」をベースにした会社のコンセプトです。リアルコムでは、人と人との関係から価値を取り出すために2002年頃にはページランクや協調フィルタリングなどを研究していました。たとえばページランクは、90年代にラリー・ペイジ(Google社共同創業者、CEO)が書いた論文には「多くのページからリンクされているページこそが、有用なページである」という仮説に基づいています。ページを人間に置き換えると、リアルコムが掲げる「人の行動から最適を探し出す」に通じるのです。僕が利用したHITSアルゴリズムも、そういった研究から見いだし、応用として実装に結びつけていました。

 もう1つは、問題解決に対する僕の思い入れです。これは、先ほど申し上げたプロダクトカンパニー志向に通じる部分でもあります。僕は、エンジニアが自ら世の中の問題解決をすることに大きな価値を見出していました。

 

Q:石川さんがシリコンバレーから帰国されたのはいつ頃ですか? 

 2009年です。上場後のリアルコムの失速をアメリカから見て、僕は「あれだけ優秀な人が集まって素晴らしいことをやっているのに、なぜ成功しないんだろう」と考えました。そして導き出した僕なりの答えが、「ソーシャルとかキュレーションって別に無くても良いからじゃね?」です。BtoB事業で時代も時代でしたから、お金を出してまでソーシャルを使ってはもらえません。つまり、必要のないものだからお金を出さないんです。そう思い、僕は逆に「ユーザーにとって絶対必要なライフラインのようなもの」を作りたいと考え始めていました。

 それに、シリコンバレーは素晴らしい場所ではありましたが、アメリカでの3年間で「日本を元気にするエンジニアになりたい」という思いが強まりました。日本を捨てる気もないのに、離れた場所から日本を見ていることに違和感があったんです。そんな時に「A-SaaS」のお話をいただき、アカウンティング・サース・ジャパンにジョインすることを決めました。
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Q:アカウンティング・サース・ジャパンに入社された理由をお聞かせください。

 2つあります。まずは今言ったように「エンジニアとして世の中に必須のものを作りたい」というその時の動機にぴったりあったこと。2つ目ですが、僕個人の動機を越えて、日本の経済に対する税理士さん達の偉大な力を感じたからです。BtoBの会社にいて、僕はそれまで大企業ばかりを見ていました。が、日本経済を回しているのは大企業だけではありません。その何百倍も存在する中小企業が元気にならないと、日本人がハッピーにならないんです。税理士は、そのすべての人達と関わり、会社や個人のお金の動きをすべて把握しています。彼らが日本に貢献できる可能性は、計り知れないですよね。それに、税理士という職業を選んだ方々は、中小企業の発展を必ず願っているはずです。

 しかも、税理士さん達はピンチを迎えていました。税理士業界専門のコンピューター業界は、70年代、80年代の「オフコン」の時代にコンピューター化した世界なので、テクノロジーもビジネスモデルも古いんです。さらに高額で、5年ごとに1,000万円以上のリース料を請求されるという状態が今なお続いています。3~4名の事務所でそれだけの費用を捻出するのは、大変なことですよね。

 30~40年続いているシステムですから安定はしていて使い勝手も良く、開発会社はすべて一部上場しており信頼性も非常に高いです。ただ、あまりにも高額すぎて、効率化するためのコンピューターがかえって経営に打撃を与えてしまう状態なんです。日本経済を支える税理士さん達が、20年前には最先端だったコンピューターによって大きなペインを被っていたのです。

 その問題を解決するために有効なのが、システムのクラウド化です。コストは確実に抑えられますし、インターネットやクラウドの力で税理士をサポートできれば、日本を元気にできると確信しました。それがアカウンティング・サース・ジャパンにジョインした理由であり、現在もベースになっている部分です。

 

Q:税理士向けシステムのクラウド化は非常に難しかったそうですね。 

 そうですね。大きく分けて2つの壁がありました。1つは、要求水準が非常に高いことです。税理士さんたちが計算を間違えたりしては、お客さんからの信頼を失ってしまいます。厳しい仕事をしているプロフェッショナルが使うものですから、相当な水準が求められます。もう1つは、必要とされるシステムの幅が広いことですね。競合他社は何十年も税理士向けのシステムを作り続けていますから、相当な範囲をカバーしているんです。

 SaaSのビジネスは初期投資をしてクオリティの高いものを作り、一定以上のラインを超えれば安泰という領域です。が、それにしては、税理士向けSaaSというのはクォリティも領域の広さもレベルが高すぎました。こんなに大変だってわかってたら飛び込みませんでした(笑)。.ほんと、日本を元気にするレベルの馬鹿でもないと始められませんし、飛び込みません(笑)

 

Q:「A-SaaS(エーサース)」の開発環境を伺ってもよろしいでしょうか。

 言語はほとんどJavaで一部Erlang。インフラは普通のデータセンターのサーバーにVMがたくさん切って有る形式から、今年中にAWSに移行しようとしています。。5分止まるとユーザーから一斉に電話がかかってきて、10分止まるとタイタニックみたいになるようなシステムですから、移行はかなりチャレンジングです。しかしうちのチームであれば、ちゃんとやり遂げられると思っています。

 

Q:チームのトップとして、石川さんがめざすCTO像をお聞かせください。

 まず、僕は、プログラマーやエンジニアは世界最高の職業だと思っています。そして、そういう人達の集団を支えられるのはエンジニア出身者の経営メンバーだけです。ですから僕はエンジニア出身のマネジメントという立場に徹し、現場のことは自分達で考えてもらうようにしています。「ユーザーに対して最高のものを提供する」というベクトルだけは示し、情報は出来るだけ密に共有しつつ、必要に応じてジャッジをする感じですね。「最高のもの」を作るためのメソッドはいろいろとありますが、たとえば開発環境もその1つです。快適かつ効率的に環境を整えるのは、あくまでも「自分達のためではなく、ユーザーのため」です。その大前提だけは崩さずに、自由にやってもらう。そんな感じです。

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Q:技術の導入をジャッジされることもあるかと思いますが、選定基準は設けられていますか?

ちゃんとステップを踏んで検討はしますが、最終的には自分の感覚かもしれません。僕は初期のRuby on Railsに賭け、無名だったリアルコムの魅力に気づき、2009年の時点で「A-SaaS」に可能性を見出しました。自分自身が大きいジャッジを何度かしてきましたから、その経験を生かすしかないと思います。

 ただ、それもエンジニアを経験した人間にしかできないことです。技術や製品の選定眼を持っているのは、エンジニアだけですよね。僕自身は決してスーパーエンジニアではないですが、エンジニアとしてのベースは培ってきました。ですから、CTOとしてチームのマネジメントができるのだと思います。

 

QCTOの役割は何だと思いますか?

 一般的な言い方をすると、「会社の経営課題を技術で解決すること」です。例えば、独自の技術でものすごく尖ったベンチャーでCTOが最もその技術に長けている場合は、その力を発揮することが経営課題の解決になります。また、CTOしかエンジニアがいないフェーズではプログラミング能力そのものが、さらにフェーズが進めばエンジニアチームを作ること、そのチーム全体の力を最大化することが経営課題の解決になります。

 フェーズと事業の種類によって経営課題は異なりますが、その都度CTOも自分を変革しないと適切なジャッジや行動が出来なくなります。経営者目線から今の当社のフェーズを鑑みて、僕は現場とは一定の距離を置くスタイルにしました。

 

Q:ありがとうございました。最後に、エンジニアとしての活躍をめざす読者に向けてメッセージをお願いいたします。

 先ほども申し上げましたが、エンジニアやプログラマーは最高の職業です。しかし、思い通りに活躍できない場所も数多くあります。まずは自分の職業の価値を自覚し、障害があれば取り除きましょう。そのためには、エンジニアにしかできない問題解決をして「結果を出す」こと、結果を出してもダメなら「環境を変える」こと、そして自分で「環境を作る」ことが必要です。

 成功するための唯一の方法は、成功するまでやり続けることです。努力を重ねてエンジニアの素晴らしさを示し、ぜひ成功を収めてください。「日本を元気にするエンジニア」が大勢現れることを、心から願っています。

 

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