最高執行責任者(Chief Executive Officer) への道のり

「COOに必要なのは、CEOに負けない情熱」
株式会社TIMERS
Co-Founder COO 田和 晃一郎


 

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■略歴

神戸大学経営学部卒業。株式会社博報堂に入社し、プロモーションや新規事業開発に携わる。2012年、株式会社TIMERSを共同創業しCOOに就任。同年リリースしたカップル専用アプリ「Pairy」が若年層を中心にブームとなり、翌年には総額1億円を増資。2014年には子育て家族アプリ「Famm」を5ヶ国語対応でリリースし、世界を視野に入れた事業を展開している。
(Pairy  http://pairy.com/ Famm  http://famm.us/ja

Q. まず、創業に至るまでの経緯についてお聞かせください。

 僕はもともとは広告業界にいました。大学卒業後に株式会社博報堂へ入社し、営業職として2年目から手がけたのが、主にモバイルベンチャーの領域でした。当時盛り上がりを見せていたソーシャルゲームのクライアントを中心に、デジタル領域に加えてテレビCMも交えた広告企画の仕事をしながら、並行して社内の新規事業開発の仕事などにも従事していました。ただ、広告会社での新規事業となると、どうしてもクライアントやメディアネットワークなどの既存の資産を活用した事業になってしまいます。そういったものありきではなく、もっと純粋に、人間の心の豊かさやユーザーの幸せな体験から発想して出てくる事業の方が個人的に性にあったんでしょうね。その頃、同じチームにいて同期だった高橋(高橋才将、株式会社TIMERS CEO /デザイナー)と業務外で色々と話していて出てきたのが、今手掛けている「Pairy」というカップルアプリの構想でした。ちょうどLINEがCMを打った直後くらいで。恋人同士ならチャットやスタンプだけでコミュニケーション欲求が満たされることはありませんし、特別な関係だからこそ求められる体験をスマートフォン上で生み出せると思い、自分たちで会社を興すことを決めました。かなり“見切り発車“でしたが笑、人生を賭けて突き詰めても十分に面白い事業領域だということで、特に悩んだりはしませんでした。開発は内制でと決めていたので、当時DeNAのCTO室などで仕事をしていた椎名(椎名アマド、株式会社TIMERS CTO)を口説き、高橋と3人でTIMERSを立ち上げました。

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Q. 創業時の資金調達はどのようにされたのでしょうか。

 最初は自分たちの資金だけでスタートしました。広告業界にいた頃、ウェブやモバイルのキャンペーン企画は、それらを日常の中で当たり前のように使う自分たちの世代が考えた方がよりリアルな提案が出来ると思っていましたし、まずはそういった領域の広告制作や受託開発を生業にし、自社アプリの開発に投資していくという形を取っていました。また、僕たちはもともとIT業界にいたわけではないので、第三者的な視点から当時の業界を見つめることができたというのは良かったですね。1つはファイナンス面。当時はまだスタートアップの事例やファイナンスに関する情報も少なくて。若い起業家が立ち上げ期から怪しい投資家と組んで株式を大量に持っていかれてしまった、といった話を聞いたりしていましたから、まずは何が何でも自分たちでキャッシュを確保するんだ、と思ってやっていました。資本政策は後戻りできないですから。もう1つはテクノロジーに対する考え方です。スマホアプリで位置情報連動してちょっと新しければそれだけでメディアで話題になる、みたいな事例が当時はたくさんありました。本来は、ユーザーの人生をより良くしたり、課題解決の為に適切なテクノロジーを使うという方が正しいと思うんですよね。畑違いだったので、いい意味で当時の業界トレンドが反面教師になったと思っています。

 その後、ユーザー数も少しずつ増えて、そろそろきちんとした条件で適切なファイナンスができるかなと動き出したんですが、結果、その流れで動いたファイナンスは大失敗でした笑。最も大きな原因は、役割分担ですね。3人で創業して、外部との打ち合わせなども複数人で出ることが多かったので、外から見たときにいったい誰が引っ張っている会社なのかがわからないというのが問題の1つだったと思います。やっぱり組織の誰が真ん中にいるのか、中心にいる人間がどれくらい魅力的で信頼に足るか、事業計画書だけでなく、そういう人間的な所も伝わりきらないと駄目なんですよね。その失敗があって以来、ファイナンス業務は代表の高橋が全責任を負うとして、役割分担を明確化しました。また当時のBtoCサービスのトレンドは、「バイラルが全て」みたいな時期でしたので、カップルに特化したクローズドSNSアプリなんて絶対に流行らないとも言われ続けてましたね笑。ファイナンス面は高橋に全て任せつつ、プロダクト面ではチーム一丸となってユーザー体験を徹底的に作り込み、口コミだけで会員数を10万人くらいまで積み上げていったことで、その後のファイナンスにうまく繋がっていったのだと思います。

Q. 共同創業によるデメリットはありますか?

 意思決定に時間がかかるというのはありますが、役割を明確化すればそこまで大きな問題にはならないと思っています。現在はファイナンスと採用は高橋、事業提携や現場のマネジメント、広報など僕の方が中心となって動いています。一方、ユーザー目線でのプロダクト体験など、議論することでより良いアウトプットに繋がる領域においては、共同創業なのでトップダウンになりきらず、誰もがフラットに意見を言い合える土壌・雰囲気が初めから出来ていた、という事はいい部分だと思います。

Q. 高橋さんがCEOに就任された背景についてお聞かせください。

 これは僕個人の考えですが、一緒に何かをやる場合に、感性などの独自性が高い部分に関して、相手が自分にないものを持っているというのは非常に大きなことだと思うんです。例えば、事業計画を練り上げるというのは積み重ねによって身につく能力ですが、感性的な部分はそうはいきませんよね。高橋からは、非常に面白いアイディアや突拍子もない視点が出てくることが昔からあるんですが、会社をやっていく上で、そういうCEOが持つ“普通じゃない部分”を良い方向に生かしていけるかどうかは重要なことだと思っています。事業や組織を大きく左右する可能性を秘めた、自分が持っていない“何か”を持っているということで、高橋にCEOを任せることにしました。

Q. COOのあり方について、田和さんはどのようにお考えでしょうか。

 自分にはない感性や技術をCEOやCTOが持っていても、結局は組織の中で自分がいちばん“優秀”にならないといけないという向上心を持っていることは大事なんじゃないですかね。そして、CEOを誰よりも理解しようと努め、時にサポートに徹することができる存在が、初期のスタートアップのCOOという役割では大事なんじゃないかと考えています。後は、CEOが持つ感性やアイデア、CTOの技術的知見、その他会社が抱える全てのアセットをうまく組み合わせて、会社の将来の為にどうそれを生かせばベストプラクティスになるのかと考えるのも大事な役割だと思っています。

 また、普段のコミュニケーションでは、CEOやCTOがどういった思考をしているかを読む事は常に意識しています。高橋が何かを言ったり、何か情報を共有したりした際に、「ああ、これ、こういう意図で言ってるんだろうな」と、何も言わずとも理解できるようになっておきたいと思っています。

 一方で、実は僕たちは3人とも興味や関心、プライベートもバラバラで、起業してからは一度も3人で夜ご飯を食べに行ったことがないんです。ただ、組織やサービスが目指すビジョンにおいては強い共感はあるので、特段プライベートを一緒に過ごさずとも、いい意味で違うインプット・要素が組み合わさって3人での議論が出来ています。

 個人的には、僕はもともと読書や映画鑑賞が好きだったのですが、COOになってからは哲学や歴史・社会学の書籍を読むことが多くなりました。人をもっと理解したいという思いが強くなりましたね。事業を通じて、人間の幸福や本質的な価値を追求したいという思いがあるので、そういった領域は今後も学び続けていきたいです。

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Q. 「Pairy」や「Famm」に通じる部分ですね。

 そうですね。人間にとっての本質的な豊かさに繋がるものは、いつの時代も変わらないと思っています。「Pairy」を例にとると、恋愛は人間にとっての普遍的なテーマであり、歴史を見てもそれで1つの国が滅んだり、不幸な殺人が起こってしてしまうくらいの莫大なエネルギーを持っています。それほど大きな感情・関係を、テクノロジーを使ってより良いものにしていくことができれば、人類にとって大きなプラスになるのではないかと思ったんです。それに、普遍的な価値というのは景気の波に左右されませんから、その領域でビジネスモデルを確立すれば中長期的な事業としても大きな軸になると考えました。

Q. ユーザーからの反応はいかがですか?

 会員数は非公開ですが、今年は数百万人規模のサービスへ成長させていく予定です。アプリストアのレビューも基本的に5点満点を頂いており、ユーザーにも評価していただいているのかなと思っています。Pairyでは、これまでに無かったカップル間のコミュニケーションを創造してきました。Pairyを使って、これまでよりも相互理解が深まった、コミュニケーションが増えた、マンネリが解消したというユーザーは多いですし、50%の人々は“結婚を意識するようになった”とアンケートで答えていただいています。プラスの体験を提供できているようで、大変嬉しく思っています。

Q. 「Pairy」を今後はどのように展開していきたいとお考えですか?

 既に市場で確立されているマネタイズ手法に留まるのではなく、今までにないような広告モデル・課金モデルを作っていきたいと考えています。今のアプリはほとんどがアドネットワークでCPI・CPAいくらといったタイプの広告が主流ですが、現状はそういった領域に手を出す予定はあまりありません。スタートアップやベンチャーは普通の中小企業とは異なり、今までにないものを生み出すという責務を負っていると思うので、積極的に新しいことにトライ&エラーをしていきたいですね。

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Q. では、TIMERSの今後の展望についてはいかがでしょう。

 現在「Pairy」と「Famm」を軸にカップル、家族にフォーカスを当てていますが、それらの領域において世界で一番データを持っている会社になるのが大きな目標です。あとは、中長期的な視点では、人間関係を支えていけるようなブランドを作っていきたいです。現在はアプリ領域が中心していますが、10年後にはスマホアプリという概念はなくなっているかもしれません。抽象的ではありますが、「ティファニーを贈るのは真実の愛の象徴」「コーヒーといえばスターバックス」という感じで、カップルといえば「Pairy」、幸せな家庭といえば「Famm」というようなイメージが定着するのが理想ですね。

Q. ありがとうございました。最後に、若者へのメッセージをお願いいたします。

 僕は学生時代「情熱大陸」や「プロジェクトX」などの番組が大好きだったんですが、ああいう番組に出てくる人達は、規模の大小を問わず、やりたいことをがむしゃらに追求していった結果それを生業にしていて、幸福度の高い人生を送っている人が多いと思うんですよね。なので、若い人は、起業する・しないに関わらず、自分の人生を懸けて取り組める領域を徹底的に考えてみるべきだと思います。それが運良く見つかって、起業するくらいの情熱をそこに持てればどんどん挑戦すべきだと思います。起業で0から1を生み出すのは大変な事ですが、それが人生を賭けても良いようなものであれば、自ずとエネルギーが湧いて来て、大変な事も楽しい、そんな状態で目の前の事に向き合えると思います。もちろん、サラリーマンや公務員として働きながら、家庭を育むことに自分の人生の価値を見いだす生き方も、この上無い幸せな人生だと思います。ただ、情熱を注げるようなものを見つけた時に、既にその時にいろんなものを背負っていて身動きが取れない可能性もありますよね。その時になって後悔はしないでほしいですね。なので、時間のある若いうちに徹底的に自分と向き合い、人生を賭けたくなる領域がないかはきちんと考えてみるべきだと思います。

 僕の場合は、かつて広告業界にいた頃、時間をかけて面白いものや人を感動させるものを考え、半年かけて準備しても、結局は“キャンペーン”として消費されて数ヶ月で終わってしまうといった体験が、自分なりに人生を考える良い機会になりました。面白い仕事だったとは思いますが、クライアントのプロモーション施策の一部でしか無い限り、相対的には刹那的なものになってしまいます。そして、自分がかけた時間がきちんと積み上がっていくようなものに携わりたい、その中でも人間の幸福に寄与できるものを、と考えてたどり着いたのが「Pairy」のアイデアで起業をするという選択でした。人生という限られた時間の中で、本当にやりたいことに全力を注ぐことが幸せだと思える人は、選択肢の一つとして起業を考えてみるのもありだと思います。まずは、自分がどう生きていきたいのかをつきつめてみてください。

 

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