最高財務責任者(Chief Financial Officer)の生きる道

「クビをかけてブレーキを踏む」それがCFOの役割
株式会社富士山マガジンサービス
取締役CFO 佐藤鉄平


 

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⚫弁護士志望から多彩なファンド経験

Q:今までのご経歴からお話しくださいますか。

A:大学卒業後に、ベンチャーキャピタル(VC)のエヌ・アイ・エフベンチャーズ(現・大和企業投資)に入社しました。実は司法試験を目指していたのですが不合格になり、就職活動の時期を逃していたんです。悩んでいたところに大学の就職課で投資会社の掲示を見て、面接に行きました。そこで何がやりたいか聞かれて、「いろいろな会社を見て自分の知識や経験を高めた上で、弁護士としての営業活動につなげたい」と話したら、社長から「うちしかない。3〜5年で独立する覚悟で行け」と言われ、お世話になることにしました。

Q:その頃のVCは、どのように見られていたのでしょうか。

A:2000年当時はネットバブル真っ盛りでした。入社時からしばらくは飛び込み営業の電話口でVCってなんだ、カネ貸しか、と言われるくらいでしたが、同じ年の8月頃に、VCに対するイメージがガラリと変わったんです。ベンチャー企業の育成のために東証マザーズができて、大企業でもベンチャーに対して興味を持つ方が増えていきました。

Q:しばらくして異動なさったそうですね。

A:2年ほどベンチャー投資で実績を上げた後、新設したバイアウト(価格操作や経営権獲得のための企業買収)のチームに移りました。これが、私にとっての挫折になりました。今でこそ、ディスカウント・キャッシュフロー法(収益資産価値の評価方法)やファイナンス理論は常識ですが、当時のキャピタルはPER主体でした。バイアウトの世界に入った瞬間、外資系の投資銀行から、ファイナンスの知識がないんじゃ話にならない、と言われて、当時では珍しかったファイナンス・会計の専門職大学院であった中央大学の大学院に通いました。そのうちにキャピタリストとしてファンドの世界で生きていくなら、エグジットスキルが必要だと感じました。そのあたりで、エヌ・アイ・エフの先輩で当時ネットエイジ(現ユナイテッド)のCFOをやっていた方からIPO実務を頼まれたんです。契約通り、ちょうど1年間で上場させました。

Q:その後はいかがでしたか。

A:予想以上にスムーズにIPO実務を経験できたので、次は経営とM&A(企業買収)だと考えて再生ファンドを探していたら、エヌ・アイ・エフにいた頃の縁でジェイ・ブリッジ(現アジア・アライアンス・ホールティングス)に入りました。ただ、結果的には大失敗でした。企業型ファンドと言われていましたが、要は、集めたお金を上場会社に投資し、その株を担保にして資金を借り、また別の会社に投資する、つまりは会社が信用取引を繰り返している状況だったんです。2005年12月に入社したのですが、、2006年の時点で市場がクラッシュし、7月か8月の段階で本社に呼ばれて「本社に戻り、病院系の投資をやるか、派遣されている先で自活するか好きな方を選べと言われました。入社当初と話がちがっていた話が多く、正直、愛想が尽きていましたが、さすがにお手伝いしていた会社については情としてそのままさようならはできなかったので、その会社が定時株主総会を乗り切るまで、しばらく自分の家賃相当分の報酬だけで働きました。今まで貯蓄してきた預金は全て消し飛ぶしで結構タフな経験でしたね。

Q:それからどうなさったんですか。

A:またエヌ・アイ・エフにいた頃の縁で、新興系不動産ファンドのプライベートエクイティのファンドの立ち上げを手伝うことになって2007年の3月に移ったのですが、リーマンショックの足音が聞こえていた時期でもあり、会社方針としてプライベートエクイティに経営資源を割けないという状況になってきましたので、このまま在籍してお荷物になるのは誘って頂いた方にも申し訳ないと判断して辞めました。投資原資がない状況の投資担当者なんて、単なるコストでしかないですから。。。辞めた後、ちょうど楽天系の投資会社である楽天ストラテジックパートナーズ(楽天SP)が国内の再生案件の担当者を探していると聞き、面接を受けに行きました。ここを紹介してくれたのが確か私の記憶が正しければBNGの蔵元社長(当時は別の会社)だったと思います。楽天SPさんはちょうど結婚情報サービスのオーネットの買収の検討始めるタイミングで、入社初日に弁護士を集めた場所に呼ばれ、「今からちょっと(当時オーネットの本社があった)大阪行って現場をまとめてDDしてきて」と(笑)。現場のDDの責任者としてディール(M&A案件)をまとめまして、その後CFOとして事業の再生を担当しました。もっぱらコストカットを主軸にやっていたので当時はハンカチ王子にちなみ「再生王子」とか言われていました。その後、上場しているソフトウエア会社さんの投資等を担当しておりましたが、楽天本体が国内投資事業は行わない旨の意思決定をし、所属先の楽天SPが楽天証券との合併という形で消滅してしまいました。私は投資した上場会社の後処理のために楽天に移りましたが、その頃には楽天が買収してまで取りたい国内の事業モデルが少なくなっていたこともあって、今後、活躍の場がなさそうだなあと感じていたこともあり、処理が終わったタイミングで辞めました。正直、英語もそこまでできなかったので(笑)。その後、政府系のファンドに入社しましたが、正直ここはカルチャー的には合わなかったですね。でも、生まれて初めてオールドエスタブリッシュメントと言われる伝統的な大企業、役所のカルチャー、ものの見方、組織主義、序列主義の現場を実体験として学ぶことができて、そういう意味ではテーブルの相手方の現場の方の立場、現場の方が突破しなければならない壁がどういうものが理解できて有意義でした。あと、「天下国家の戦略があって、わが社は産業をこうしていかなければならない。だから、これをやるんだ。」というベンチャーにはない経営戦略の立て方、モノの味方というものを学べたことも新鮮ではありました。 この会社にお世話になったことで、お金と人材と時間がふんだんにある会社は多分、こういう風に考える、だからこそ、「王道」を進むと先行していても結局、最後は大企業のローラーに踏みつぶされてしまう危険が高いと強く感じました。逆に小回りきかせないと戦えない市場、「抜け道」的な市場については、大企業は大きすぎるがゆえに素早く動けないのでここの市場を戦うならベンチャーにこそ勝機があるのではという考えを強くしました。

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⚫定期購読というサブスクリプションを武器に

Q:その後、今の会社へと入社を決めた要因はなんだったのでしょうか。

A:上場した後、成長し続けていくためには、安定収益・固定収益がなければなりません。当社のモデルは、定期購読が主体ですので、上場後もやりやすい商売だと考えました。また、出版業界は今まで、出版社が取次に卸し、取次が書店に卸して、書店は読者に売る仕組みで、ユーザーである読者の情報を誰も持っていません。定期購読は読者と出版社を直接つなぐ商売ですので、すべての読者情報が得られますし、その個人情報を持っている会社は当社しかないんです。今後、ビッグデータのプラットフォーマーとして、非常に強い立場になり得ますし、将来的にも、マザーズ上場からステップして、EC(電子商取引)の世界でも特異な地位を築けると考えて、入社することにしました。

Q:入社後の資本政策で苦労した点を教えてください。

A:事業会社が大株主にいる場合で留意しなければいけないのは、各社の同意を得た上で資本政策を書かなければならない、という点です。当社にとっては、既存株主にどのようにしてエグジットの機会を提供するかが重要でした。株主に望ましく、かつ、マーケットを裏切らないかたちで、きちんとしたエグジット戦略と成長戦略を資本政策上でうたわなきゃいけない。ただし、大株主さんにとっては上場時に売り出ししないメリットもありましたので、納得いただくために株式数を調整して、何度も提案して、という部分に苦労しました。

Q:最終的な2,650円という公示価格でした。

A:昨年度の業績とECという事業で他社と比較すると少し高めです。主幹事証券との間の交渉が大変でした。主幹事にすればEC事業だったらこのくらいという水準がありますが、当社は他のEC事業体と違います。それは先ほど申し上げたサブスクリプション、継続型だという点です。他は来年新たなお客さんに売りますが、うちはそうではありません。継続階段型ですので、ECだけで見られては困る、と強く主張しました。

Q:具体的にはどのような交渉だったのでしょうか。

A:まず、ECの中で継続的な収益のある会社はありませんよね、と。その上でECではない、継続的にお客さんをつかんでいる会社を伝えました。また当社のデジタル雑誌部門については、デジタル雑誌をお預かりして、他の書店に提供する、いわは取次に近い立場にあります。そこで「デジタル取次事業者の上場会社の評価はマーケットでどうですか。これとこれをコンバートすると、ECではない点をPRできますよね」という形で説明していきました。結局、証券会社の中で説明する材料をどれだけ準備するかが肝だったと思います。

Q:通常、証券会社の営業担当と、決裁者は別の人ですよね。後者にアプローチはできましたか。

A:ファイアウォールは引かれていますから、直接はできません。特にIPO系は、証券業界でも営業部門とブレーキ部門は完全に分かれています。ただ、営業部門は逆にわれわれにとって味方なので、最終的にやりたいという思いで会社の意向をくんでくれます。ただ、くみすぎると、高い株価で最後に損するのは投資家です。それを避けるため、いまは証券会社の中にブレーキ部門があるんです。ですから、営業部門に「こういうところがある」と言わせて、ブレーキ部門を納得させる。そこを一緒に作っていくプロセスが重要ですね。

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⚫明文化されていないルールをいかに引っ張り出すか

Q:では、内部統制で苦労した点をお聞かせくださいますか。

A:特に歴史のある会社は、実際上のルールはあるものです。問題は、明文化されていない上に、それぞれの頭の中にあるルールが微妙に異なることです。そこで一度、すべてをヒアリングしてまとめ、紙に落とし、現状に近いルールを運用しましょうと合意を取っていく作業をやるんです。ここがやはり一番肝だし、大変なところでもありますね。がちがちのルールでは運用できないし、結局は管理部門の自己満足になってしまうので、最低限必要なところの見極めが必要です。自分で新しく作るんじゃなくて、あるルールをどうやって引っ張り出すか。そこを詰めていくのが大切だと思います。

Q:つまり、もともと運用されていたルールをブラッシュアップする形でしょうか。

A:そうです。どこの会社も5年10年たつと、規定にも紙にもなっていない約束事はある程度あるものです。その約束事を探し出して、それほどずれずに、これだけは必要だというところをアドオンしてルール化すれば、なんだ、今までやっていたことと変わらないじゃないと、抵抗感なく進められるんです。

Q:よくIPO直前に大きな問題が起こると聞きますが、御社ではいかがでしたか。

A:特段大きいものはなかったですね。やはりIPO経験者の有無が重要だと思います。。IPOの準備中にIPO経験者を入れる有用性は何かというと、どこが問題になるかが分かることです。問題になりそうな点を上場審査の前までにどう片付けるかがIPOの肝だと思います。経験者がいないと、不意に問題が出てくるので大変だと感じるのかもしれません。

Q:具体的にはどのように問題を片付けていったのでしょうか。

A:問題になりそうなことは、早め早めに主幹事証券と握りにいっていました。主幹事といえども、問題がいきなり問題が目の前に出て来ちゃうと社内調整ができません。あらかじめ、ここに問題の山があるから、どう越えるかを御社のスケジュールで、審査部を説得する前に片付けましょう、という話で持っていきました。どこまで握ればいいかをお互いに話せるのは重要でしたね。

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⚫クビをかけてでもブレーキを踏む覚悟はあるか

Q:さまざまな上場を経験していますが、上場が成功する会社の共通点は何ですか。

A:最低限、絶対的に必要なのは安定収入があることです。読める収益がないと上場は極めて難しい。なぜなら統制強化もあって、特に上場コストが非常に高くなっているので、安定コストのないところで下手に上場準備を始めると、管理コストが重荷になって、会社そのものを傾けかねません。年間2,000~3,000万の管理コストを払ってでも会社を回せるぐらいでなければ、上場すべきではないと思います。正直、会社の収益が回っていて、知名度もそれなりにあって、いい人も来ている状況であれば、上場しないほうがむしろハッピーなケースもありますからね。

Q:では、上場に向いている経営者像はありますか。

A:お金ではなく、事業意欲のある人ですね。ともかく自分の会社、事業を大きくしたい、世に認められたい、というタイプの方々は上場に向いています。反対に、別に事業は嫌いじゃないけど、事業よりもお金が欲しい、自分のステータスが欲しいという人は向いていません。お金やステータスは上場しなくても得られますし、証券会社や監査法人からいろいろ言われて萎えてしまう人が多いです。上場後も、毎年、投資家や株主、機関投資家に報告が必要ですし、状況が悪くなると詐欺師呼ばわりされるわけです。分水嶺としては、やはり事業意欲だと思いますね。

Q:CFOの役割とはどういうものでしょうか。

A:一番は管理統制を図ることです。多くは社長がアクセルを踏むものだと思いますが、それに対してCFOは二つの役割があります。一つめは、ブレーキを踏むこと。これは、法律違反であるとか、リスクが非常に大きいときに、クビをかけてでもブレーキを踏める。もう一つは、リスクがある際、事業サイド、社長サイドに、理論的にそのリスクを提示して、立ち止まって考える場を提供すること。この二つだと思います。会社の事業をしっかりと把握した上で、今申し上げた提言をしっかりできることが理想ですね。

Q:社長の手綱を持つようなイメージでしょうか。

A:役割分担がしっかりできるということです。最後に会社の全責任を負うのは社長ですが、最終的な判断をする上で、そんな話聞いてないと言わせるようではいけません。すべての材料を提供した上で判断してもらう。営業部門やフロント部門を預かるのがCOOであれば、バック部門、リスク部門を預かるのはCFOの仕事です。その立場から、判断に対して過不足のない情報を提供することが必要ですね。結局、三者の役割分担ですので。

Q:最後にCFOを目指す方々へアドバイスをお願いします。

A:管理部門として専門性は一本持っておいたほうがいいですね。専門性は何かで持った上で、他のところの管理部門の業務とかについても積極的に手を出していくことは必要なだと思います。少なくても、何をやっているかは分かるレベルじゃないと務まりません。私は法務を主眼に動いてきたので、ないものねだりかもしれませんが、やはり経理系から始めたほうが、のちのちに良いと思います。

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