最高財務責任者(Chief Financial Officer)の生きる道

「CFOなんか採用するな」 アドイノベーション株式会社 取締役CFO 広岡一実


 

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Q. これまでの経歴をお聞かせください。どんな学生生活でしたか。

 僕は高校時代にですね、麻雀が忙しくて高校1年生を2回やっているんですよ。成城学園だったのですが、結局成績も悪すぎて大学の推薦が取れず、数学だけでテストが受けられる淑徳大学というところを受け、そっちに行きました(笑)部活はずっとサッカーをやっていました。
 大学卒業後、最初は丸紅の子会社で化粧品の輸入ビジネスに携わり、その後、日本ユニシスの子会社でWebマーケティング系の事業をやっていました。その後は、父親の経営している会社が始めたゴルフの事業会社を手伝っていたのですが、その事業がうまくいかずに事業継承のにおいが出てきたところで辞めて、ちょうど声を掛けてくれたインフォコムに入社しました。

 でも、入社して3日間、誰も声掛けてくれないんです。ちょっと聞いたら僕がもともとやるはずだった仕事が、入社する数日前に突然なくなってしまったと。仕事無くして転職してきて、またやる仕事がなくてどうしようかな、と思ったのですが、僕はもともと戦略を練るのが専門なので、社内の人的リソースや、持っているアセットなどを分析するところから仕事を始めました。まだ入社して1ヵ月でしたが、色々と検討したり、社外の人と会ったりしているうちに、とあるM&Aを検討する話が進んだんです。それが人生で初めて関わったM&Aですが、当時はコーポレート本部との会話でも、M&A用語やファイナンス用語がよくわからず、NPVがどうだとか、DCFがどうだとか、「ふふん」って分かったふりしながらググってましたね。(笑) それまでファイナンス系の経験もゼロだったのですが、なぜか石森(現:アドイノベーション株式会社・代表取締役社長)にCFOやりませんか?って言われて。今まで立ち上げ、商社、メーカー、インターネット系と渡ってきて、M&Aや投資にも絡んできましたが、でもCFOってまだやってないな、と思い、じゃあやってみるか、と。

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Q. CFOとして、広岡さんの役割は何だと思いますか?

 僕は単純に担ぎ手ですよ。社長は組織を進む方向へ向かわせる人。それに対して、僕はどうやったらそうなるかを考える人。一般にはストーリーテラーっていう言い方もするし。それがメインの仕事だと思ってます。
 日々の作業としては全体のバランスをとる仕事をしています。ポジション的にはアメーバみたいなものです。社内のチームや、各々の部があって、ベンチャーキャピタルや提携先企業がいて、僕の仕事がどこにあるかって言われたら、全部すき間なんですよ。すき間にはまっていて、その都度その都度やらなくてはいけない仕事をしている感じです。
 例えば、海外事業を立ち上げるとして、そのために海外に派遣する人を見つけたり、パートナーシップを組める先を見つけたり、さらに販路のための営業にも人が足りなくなるので確保したり、というのもそうです。直近だと、システム開発の方でどうしてもリソースが足りなくなってきたので協力会社を探していました。リサーチをかけて、とりあえず会って話をしてみて、といったこともやっています。要するに、その時その時に、会社として、わざわざ人を採用してまでやりたくないスポット的な仕事をひたすらこなしている感じです。これは結構重要な役割で、僕がファイナンス出身ではないから、そういうスタンスで仕事ができているのかも知れません。

 あとは、官房長官のような役割もしていると思います。
 ベンチャーの場合は、CFOなんか採用するなって、僕はよく言ってるんです(笑)

 石森にも言ったのですが、僕にCFOは期待するなと。ただ唯一、社長室長はできる、と。

 たとえば、僕の主な折衝相手であるベンチャーキャピタリストにとって、おそらく一番困るのは、投資先の会社が変なお金の使い方をしてしまうとか、会社法を全く守らないとか、そもそもどうしてこんな経営陣に投資してしまったのかを問われることだと思うんです。彼らが真面目に投資して、PDCA回して、投資先の経営陣もベストを尽くしたのに、それでも失敗した、というのとは意味が違いますから。
 

 大きな夢とプライドを持っているスタートアップの社長と、できるだけ現実的に厳しく評価してPDCAを回そうとするベンチャーキャピタルが噛み合わないところを、うまく調整するところが僕の役割です。スタートアップの社長って、やんちゃすぎて、おっかないんですよ。これをやられちゃ困るっていうことを思い切りやりそうな雰囲気が出るんです(笑)。だから、基本的に僕がやっているのは社長室です。
 普通にいわゆる財務分析しろって言われたら、相当お子さまのレベルです(笑) ですが、最低限の考え方のルールとか、皆がどういう計算式を用いているのか、などは知っているので、ポイントを押さえた反論は一応できますが。現段階ではIPOした後の、上場会社としての立て付けにこたえられる管理本部のトップではないです、残念ながら。では、なぜそこにいるんだと聞かれたら、優秀な専門家のスタッフがそこにいるからやれているんです。

 

Q. 社内の専門家に任せているのですね。

 とりあえず、経理財務の専門家はスタッフとして一緒にかばってもらってます。僕なんか仕訳1つよく分かっていないですし、1円単位でビシッと合わせるってタイプでももちろんないですし、決算閉められるわけないですよ。その他のタスクは弁護士、社労士と、専門家の先生に助けてもらってます。最低限のルールと基礎知識が分かっていれば、会話は全部成立させられるわけですし。

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Q. 広岡さんのモチベーションは何ですか?

 モチベーションね。何でしょうね。分からない。でもコワいんですよね。リストラされたくない。でも、ちょっとスキを見せたらリストラされる気がするんですよ。今も自分で会社の経営を見ていて思うのは、「どうしてもこの人じゃなきゃダメ」というのがないんですよね。ゴルフの事業をやっていたときにすごく思ったのが、どう頑張っても、ゴルフ業界全体の流れには勝てない、ということですね。だからゴルフ業界を離れようって決めたのは、ゴルフ業界にリストラされたと感じたからです。

 

Q.業界にリストラされたというのは。

 業界の人数が変わらないのにマーケットの規模が下がっているのだから、どう考えてもいらない人間が出てくるはずです。だから、そのままゴルフ業界に残るのが自分の経験も含めて楽ではあったのですが、ここに残ってはいけない、これはもう業界からリストラされたと思ったんです。では、なぜスマホ業界に行ったのかというと、ここは絶対伸びるって分かっていたからです。

 要するに、伸びるマーケットに行きたくてしょうがなかったんですよ(笑) 20代の頃は、自分がすごければ、全体の流れとか風潮とか変えられるんじゃないか、と思っていたのですが、これは違うなと。世の中のトレンドを1人の力でひっくり返すことは絶対にできない。よく考えてみたら、ソフトバンクだってそうだと思いますよ。彼らが買収しているマーケット、成功しているマーケットってやっぱり伸びているマーケットですよね。ダウングレードのマーケットでこれまでひっくり返してる人は、ほとんど見たことない。で、そう考えていくと、いつ日本がダメになるかとか、いつ自分が働いてるマーケットがダメになるか、とかが読めないですよね。そう考えた瞬間に、40歳・・・、まだあと生ききるまでに何年かかるか、とか考える始めるんですよ。これは本当にコワいですよ。

 

Q.会社からのリストラ危機ではなく、マーケット全体からのプレッシャーを感じたんですね。

 ゴルフ事業のときは感じました。「ああ、俺マーケットにリストラされたんだな」って本当に思いました。ゴルフ場というのは、日本に2500コースほどありますが、そのうち1500コース近くは民事再生ですよ。民事再生法って、一時期、ゴルフ場再生法って呼ばれていたくらい。でも結局、ゴルフ場は許認可制なので政治も絡むし、土地(地主)も絡むし、しかも、地方経済にとってゴルフ場の雇用ってすごく重要なんです。そう考えると、1回借金をチャラにさせてでも、誰か別のオーナーさんに引き継いでいくことが大げさにいえば国策になるんです。だからゴルフ場ってそのものがなくならないんです。そして、そうなると、働いているスタッフのモチベーションが、段々おかしいことになってくるんですよ。別に頑張って働かなくても、基本的にはオーナーが替わるだけなんだよねって。で、頑張ったって給料増えないし、早く終わってゴルフやろうって。そういうモチベーションになっていくんです。それでもやっぱりゴルフしかできないし、ゴルフ業界が好きだからっていう理由で皆残ってしまうんですが、それは業界的にいいことなのか・・・と色々と考えたときに、「あ、生きていく場所がない」と思ったんです。

 自分はまだそんな感覚で生きて行きたくないし働きたくない、と。

 

Q. 今の若い方に対してアドバイスはありますか。今やっておいた方がいいことなど。

 失敗をたくさん経験すること。あと、他人が失敗した話をたくさん聞くこと。逆に、やらない方がいいことは、他人の成功体験を聞くことです。これは再現性がないからです。成功した人に、なんで成功したのかを聞いても、みんな理由がよくわからないけど、失敗した人になんで失敗したのかを聞くと、全員理由が言えるから。何をやったら失敗するのかだけ分かっておくこと。これが重要です。

 

Q. 人のやっていないことをやるのもそうですか。

 はい。だから、動くのは早いですよ。まず先にやって、早めに仕掛ける。早めに仕掛けるってことは、満を持していざ実行する、というのとは違って、失敗のダメージが薄いですよね。要は軌道修正だと思います。よくPDCAを回しなさいっていうけれど、本当にその通りです。あまり練りに練って作り上げて、ドーンとやって失敗すると後戻りできませんよね。上司とのネゴシエーションも一緒です。企画書作り終わってから話すようではダメです。まず夜呼び出して、「ちょっとこんなこと考えているんですよね」と、温度感を見てみる。何となく興味がありそうだと思ったら、軽いポンチ絵を作ってみる。そして、それを会議室で見せるべきなのか、ランチで見せるべきなのか、と色々考えるわけです。そうやって、少しずつ進めては確認をして、マッチしているかマッチしていないか、いわゆるPDCAをまわしていく作業をきちんとすればするほど成果に近づけるみたいな。これが一人で秘密裏にずっと進めていって大物にぶつけたときに、いや全然違いました、となるとそこで終わってしまうので。

 アジャストさせていく能力は、失敗からしか学べない。その失敗というのはとにかく、トライ&エラーをやってみる。ABテストをやり続けろ、という話です。

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Q. とにかく何でもやってみることが大事なんですね。

 今でこそ少し思う節があるのですが・・・。学生時代は部活でサッカーをやっていて、ずっとフォワードだったのですが、中3のとき1年間だけキーパーをやったことがあるんです。それまでキーパーやっていた子が試合前に突然サッカー部をやめてしまって、仕方なくキーパーを引き受けたんです。高校1年にはまたフォワードに戻ったのですが。この1年のキーパー経験が今、結構効いているなと思うことがあります。要は、フォワードは10本シュートを打って1本決めればいいけれど、キーパーは1本ミスしたら、10本止めたとしても一貫の終わりなわけですよ。

 今考えてみると、バックエンドのスタッフも攻撃的なポジションの仕事も、どちらもできるのは、この時の感覚が役に立っているのでは、と思っています。自分が攻めしかできない人間からまったく真逆の仕事、役割に立った経験があるから、今バックエンドの仕事をやりませんかって言われたときにすんなりと受け入れられました。

 高校生には高校4年やってみろと(笑)。どうやるとだぶるのかと。ぶっちゃけ会社なんて一度倒産させてみろと、それからが実は本番なんだと(笑)その先にここまでは大丈夫だけどこれやるとだめなんだっていうのが見えてくるから。そういうのの積み重ねなんです。たくさん失敗しても、それをポジティブに変えていく、ということを繰り返せば繰り返すほど、成功確率は増えるんじゃないかと思っているので。何でもやったほうがいいですよね。

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