「集合知により医療を変革する」
メドピア株式会社
代表取締役社長 石見陽

営業利益・昨対比296%

現役医師が立ち上げた、医師専用のコミュニティサイト『MedPeer』。医師の「集合知により医療を変革する」ことを目指し、全国の医師達の経験・知恵を共有するプラットフォームを構築している。資金繰りの苦労や、人がどんどん辞めていく危機も経験しながら、ミッションとビジョンによる組織再建が功を奏し、2011年9月期から4期連続で150%成長を達成中。マザーズ上場を果たした今、次に狙う新しい領域とは。

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■現役医師が創業するまで

Q:まず創業するまでの道のりを教えてください。

 実は、医師になってからすぐに起業しようと思っていたわけではなかったんです。
 医師を志すきっかけは、母方の家系に医師が多く、兄貴が医師だったことです。その後、循環器内科の専門医になるため、臨床医3年目に臨床系大学院に入りました。
 臨床医をやっていると平日の夜10時前に仕事が終わることはまずないのですが、勤務していた病院で事件が起こった影響で、患者さんが来なくなってしまったんです。ちょうどその頃に誘われて行った異業種交流会で色々な方に会って刺激を受け、失敗してもいいやと思ってサイドビジネスとして2004年12月に立ち上げたのがメドピアの始まりです。


 最初は医師の人材紹介をやろうと思っていましたが、臨床の片手間で出来るビジネスではありませんでした。その時に、医師求人、医師転職、医師アルバイトといったキーワードで検索していると、当時でもずらっと百何十社、出てきていました。医師がすべての会社に登録していくのは大変だ、一括で登録できたら便利だなと思い、医師の求人情報を集めるサービス(現『MedPeerキャリア』)を思い付き、2005年にオープンしました。その2年後に、今の『MedPeer』の前身となる、医師専用のコミュニティサイトを立ち上げました。当時SNSとしてミクシィが上場しましたが、それを見てSNSがビジネスとして成立すると分かったことや、自身もサービスを利用する中で医師限定の会員制ネットワークの必要性を感じたこと、などがきっかけでした。

 

Q:会員制のネットワークを作るには相応の技術が必要になりますが、そのあたりはどうなさったのでしょうか。

 初めはエンジニアなしで、外注でやれると思っていたんです。MedPeerの運用開始は2007年8月ですが、2006年から作りはじめ、様々な苦難を経験し、その年末にはやっぱりエンジニアは社内にいてもらわないと駄目だと気付いて、急いでエンジニアを探して口説きました。

 

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Q:資金については?

 最初は、『MedPeerキャリア』から得られるわずかな金額と、週末の医師としてのバイトでもらう自己資金だけでした。最終的に運よく協力会社が見つかるまでには、名刺を1,000枚ぐらい配りました。その中で、ここだっていうところと組ませていただけたのは大きかったし、それぐらい母集団作らないとそういう出会いはないのかもしれません。今と違って、僕は医師でしかない。何もないときですからね、当時は。

 

Q:では、資金繰りにはあまり苦しんではなかったということでしょうか。

 経営者で、資金繰りに困ったことのない人なんているんでしょうか。先ほどの協力会社から資金提供は受けていましたが、ビジネスとしては成立しておらず、ずっときつかったです。2010年9月にジャフコからご出資いただくまで2004年から6年間ずっと資金繰りには苦労しました。

 

Q:医師による薬の口コミ評価「薬剤評価掲示板」の反響はいかがですか。製薬会社からのプレッシャーなどはありませんでしたか。

 当時はやはりプレッシャーはありました。薬の口コミというのは新しいものだったので、影響が大きくなり過ぎることへの不安を持たれていたと思います。ですが、これは医師にとって必要な情報だということを、伝え続けました。
 薬の評価はリアルな場所では医師同士が常にやっていることなんです。薬である以上、副作用が出ることはありますし、副作用が出るからNGなんて思わない。必要であれば患者さんに使わなきゃいけませんから。でも、どういうタイプに出やすいかとか、そういう話は医師同士で共有したいし、その方が当然患者さんのためになるんです。
 我々は、バイアスのない情報を医師に提供していくことで、結果として医療の世界がよくなると考えています。MedPeerのサービスによって医師1人1人がエンパワーされれば、その先でより多くの患者さんが救われるはずです。そこに、医師である自分がこの仕事やっている意味がありますし、もしそうでないなら、自分は臨床に戻る方がいいと思っています。

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■前期比150%以上と危機を越えて

Q:3期連続で前年比150%以上の売上を達成した要因を教えてください。

 一つは2011年秋に製薬会社であるファイザー株式会社(以下、ファイザー)との提携です。ファイザーがMedPeerの薬剤評価掲示板を利用したプロモーションを行うことになり、共同プレスリリースを出しました。医療業界は横並びの業界でもあるので、最大手であるファイザーに利用していただいたことで、他社も追随してくれるようになりました。これが成長につながっています。
 さらに重要なのは、マーケットがあるということです。どんなに優れた経営者、チームでも、市場がないと、やっぱり伸びません。今、日本の医療費は40兆円、周辺事業で50~60兆といわれます。そのうち約10兆が医薬品です。薬のマーケティング予算は数兆円単位の市場があり、その中にe-マーケティングの予算が含まれます。医療業界でe-マーケティングの世界を作ったのはエムスリーですが、メドピアは広告メディアではなくソーシャルメディアとして、彼らとは異なるポジションを取ることができました。150%という飛躍的な成長は、成長しているマーケットでしっかりポジションを取れたことが大きいと考えています。

 

Q:裏側では、組織的な危機もあったと伺っています。

 はい。2010年に出資を受け、今は赤字だけど攻めのタイミングだから人をどんどん増やしましょうと一度、20名弱ぐらいまで人数を増やしたんです。今振り返ると、当時は会社としての軸、経営者としての軸がしっかりしていなかったために、組織として弱かったのだと思います。営業とエンジニアの対立が始まり、経営陣も常にギクシャクしていました。その頃から、ぽろぽろと人が辞めていくんです。
そんな中で2011年に震災があり、多くの医師は東北に行き、医師として自分のやれることをやっていましたが、私は社長としてこの会社を通じて何もできませんでした。大災害のときに何も役に立てない事業はやる意味がないと思い、もう一回、自分を見つめ直しました。
 当時社員は10人前半までになっていました。そこで再度、ミッション、ビジョンを明確にして、メンバーを一人ずつ呼んで、「自分はこういう思いでやろうと思っているけど、本気でやってくれますか」と個別に話をしていきました。皆、その場ではやりますと言うのですが、数日経つと、実は親が大変で事業を手伝うことになりましたとか、結局は辞めて最終的にほぼ役員しかいないような状態になってしまいました。
経営者としてこれは本当につらかったです。結局、残った人で意思がまとまり、結束するしかない状況でした。精神的にはつらいタイミングでしたが、あれがないと今のうちはないかもしれません。そこから立て直し、おかげさまで黒字にはなりましたが、どんなときでもこのミッション、ビジョンを忘れずにしっかりやっていくという覚悟が決まりました。

 

Q:今後について伺います。ネット上のコミュニティは、少しずつ価値が下がる可能性がありますが、それに対する施策はありますか。

 将来、我々のサービスを医師にとってなくてはならないものにしたい。我々が今考えているものの一つに電子カルテがあります。これまでは医師側のなんとなくの抵抗とか、セキュリティー、個人情報への懸念から、医療の世界は電子化が遅れています。アメリカではクラウド型の電子カルテにどんどん置き換わってきていますが、日本では5年前に法律が改正され市場が開いたものの、メインプレイヤーはまだ確立されていません。我々は、電子カルテをメディアとして再定義し、医師と医師をつなぐメディアにしたいと考えています。例えばそこで、薬の評価が見えたり、他の人に相談ができるようになってもいい。最終的には患者さんにもデータを公開して、自分の健康管理にも使えるような場所にすれば、医師と患者をつなぐメディアになるんですね。そういう方向に行ければ、150%の成長は続けられると思っています。今のまま同じビジネスをやっていってもいずれ陳腐化していくので、新しい領域に進んでいくのが今回のIPOの意味でもあります。

 

Q:将来性を感じる事業ですが、逆に、現時点で懸念はありますか。

 ないですね。ただ、同じような取り組みがこれまでなかったのには理由があるはずなんですよね。医師側の受け入れ体制、国民のセキュリティーや個人情報に対する考え方などがあって、もしかしたら我々の事業もかなり困難なものになるかもしれません。だけど、これはもうファーストムーバ―になるしかないと思っています。医師側でいうと、セキュリティーを含めて変えていくことに抵抗が強い人たちだとは思います。ただ、これまでも日本が変わるときは、中の人か黒船のどちらかです。我々は医療における中の人のつもりなので、内側からメリットを解いていこうと考えています。

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■事業は人がつくるもの

Q:ご自身を成長させるため日々心掛けていることは。

 人と会うことです。その人には3つあります。まず同世代。ちょっと刺激のある経営者か、クリエイティブなタイプの人に会うようにしています。次に後輩。後輩を育てていくのも、そろそろ自分がやるべきことだと思うので、声が掛かったら、そのときに自分が感じていることを話します。最後に背中の見える経営者です。頑張って食らいついていけば、自分が成長できる。ただ、この場合は相手の時間を奪うことになるので、会う度に何か自分が成長した証を見せられないと申し訳ないという思いがあり、あまり気軽に時間取ってくださいとは言えません。この点は最近、自分の中でも明確に意識するところですね。

 

Q:経営者や経営者を目指す方へメッセージをお願いします。

 すごく格好つけて言えば、150%というのは結果に過ぎないと思っています。先ほど申し上げた一番つらいときのミッション、ビジョンがあるから人が付いてきてくれて、人がいるから売り上げが上がる。
 もし、売り上げ目標が先走りして、それを達成するには何人ぐらいが必要でとか、逆の因数分解をしていくと、最後、どこかでガタがくると思います。150%というのはやっぱりとてつもない成長なんだと思うんです。そこに食らいついていくには、少なくとも社長自身が150%以上に成長してなきゃいけない。社長の器量以上に会社は大きくなりません。またメンバーも、すごい勢いで成長しないとついて来られなくなっちゃうんですよね。だからこそ、大事にしなきゃいけないのが、ミッションとビジョンです。軸がないと、そういったとてつもない成長は続けられないと思います。ミッション、ビジョンを大事にし、かつ、いい人が集まってくれば、結果としてついてくるかもしれないという気がしますね。